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13.シーチキンロードに食い逃げのブチ。

定期預金の通帳を高山に預け、サッカークジの会員をやめると就活を再開した。いつも以上に気合いを入れ臨んでいるのだが、ブラックリストにでも載っちまったのか?っていうくらい、もう電話の段階で断られてしまう。仮に面接まで漕ぎ着けた場合でも、大体「他に良い人が……」で不採用になる。

こんなケースもあった。やっと、面接まで辿り着いたものの、そもそも採用するつもりがないケースだ。面接先の事務所内の観葉植物とコート掛けで区切られただけの応接スペースで、新卒か?みたいな奴が面接官を担当。その様子を決定権を持つであろう上司が遠巻きに眺めている。

これ、俺練習台だよね。

その新卒か?な面接官が、ぎこちないのを隠す為なのか、舐められない為なのか、それとも元々こういう奴なのかは分からないが、やたら高圧的な態度で接してくる。

質問も何だか変。「朝目覚めたら、そこはアフリカのジャングルでした。あなたは驚きます。でも、側に置いてある物を見て、あなたは安心しました。さて質問です。それは何でしたか? 3つ挙げて下さい」って、えっ? 心理ゲーム?

多分、つい最近、就活でシビアな面接を受けてきたんだろうな。採用面接とはこういうモノという先入観がまだ拭えてないんだと思う。ちなみに俺の答えは、プロジェクター、スピーカー、フレグランス。

要は、実はそれは単なる映像と音声とジャングル臭で、実はアフリカではありませんでした!という意図で答えたのだが、なぜかスルー。

遠巻きの上司を横目で見ると、心配そうな顔をしている。面接開始から15分くらいすると、遠巻きの上司が小走りでやってきて、汗だくで言葉に詰まる彼の隣に座った。そして、練習台にした事を正直に話した上で、本当の面接が始まるかと思いきや面接終了。

「後日、メールの方に連絡します」と言って深々と礼をすると、すぐに事務所から追い出された。間違いなく不採用だ。でも、プロジェクター、スピーカー、フレグランス、は俺的には結構良い答えだと思うんだけどな。でも仕方ない、どうせ無理だ、さっさと帰宅しよう。

自宅最寄りのT駅で降り、99円ショップで惣菜3つにおにぎりを購入すると、最近「幽霊が出た!」という怪談話出現中のボロっちい病院を通過。橋の手前で曲がり川沿いを数十メートル歩くと、コインパーキングに高級車が止まってた。それもその高級車のナンバーが8888、ボロボロのアパートの隣でハハハハって高笑いしてやがる。何かムカつくぜ。

アパートの入口の物理的には防犯効果がゼロだが心理的に防犯効果がある扉を開けると、シーチキンロードに食い逃げのブチ。

俺の姿に気付き、一瞬逃げ姿勢になったが、俺が、中腰になり、「おい、お前には聞きたいことがある」と問い掛けると、俺の方にゆっくりと歩いてきた。中々、肝が据わった奴じゃねえか!

「何だブチ、食い逃げの弁明か?」
「ニャー」

「そっか、お前にも言い分があるんだな。話してみろ。何、えっ?、お前言い訳するな。俺はお前がな平和の象徴を加えていた所を目撃したんだぞ。うんうん。えっ? 何だって? いやいや屁理屈言うなって、えっ? あ~、そうか、お~、お~、なるほどな。仮にブチが鳥派でも、ブチの姿があるだけでネズミはビビって近づかねえって事か」
「ニャー」
「まあな。確かにな、お前はよく出勤してるもんな~」
「ニャー」
「そっか、それはすまんすまん。俺が悪かった。そうだな、お前が出勤するだけでもネズミ対策になるもんな」
「ニャー」
「えっ? 何だって?」

ブチによると、アパートから20メートルくらいの古い工場が解体され、マンションになるそうだ。解体する際に工場の地下をねぐらにしていたネズ公達が一斉に移動する。ここのアパートをねぐらにされない為にも、シーチキンの頻度を増やした方が良いと教えてくれた。

「何かありがとうなブチ」

ブチはしゃがんだ俺の膝の辺りで背中を掻くと、そのまま退勤した。以後、ブチの愛称は「情報屋のブチ」になった。


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