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39.俺、一新する。

引っ越し先はMN町にある、築10年と比較的新しいマンションに決まった。5階建てのマンションで、駅から5分の場所にある。間取りは1K27㎡。家賃は月9万。インターネット料金が無料、という物件。

線路沿いのマンションの為、電車の騒音が気になるモノの、近くに緑地や農地などもあり、H町では見た記憶すら乏しい雀の姿をよく見掛ける良い環境だ。

引越前日、隣のブラジル人達に送迎会を開いてもらった。まあ引っ越し先も近いし、サッカーには行くから、お別れでは無いんだけどね。

送迎会で出された食事は、沖縄にルーツを持つ人が多いからか、ブラジル料理ではなく沖縄料理が多かった。

短い間に彼等の状況も変わった。最初引っ越して来た時には8人だったが、今は6人だ。それも、最初引っ越して来た時に居た人で、今も残っているのは4人。ブラジルに帰った人、神戸に行った人、行方不明になった人、新しく仲間入りした人。

彼等も彼等で大変みたいだ。そりゃ、日本で生まれ育った人達ですら、大変な人だらけなんだから、彼等が苦労するのは仕方無いと言えば仕方無いのかもしれないけど、それでも楽しそうに生きている。

ただ、送迎会の終盤になると、スマホで家族の写真を見せてきては「会いたい」と零すので内心は寂しいのかもしれない。今は「ブラジルの方が成長してるんじゃないの?」と聞いたが、その恩恵は一部のエリート、一部の地域の話だそうで、むしろ生活は厳しくなっているのだそう。

送迎会の最後、向こうで大流行した「島唄」を皆で歌い、向かいのマンションのステテコのオッサンに怒鳴られ、送迎会は終了した。

MN町への引越を終えると、暇な時間を見つけては歩き回っていた。駅周辺には、線路とほぼ併走する旧街道の向こうに、雰囲気の良い商店街が小さくまとまっている。全部で30件から40件くらいだろうか?

昭和っぽい軒の中に、ポツポツとオシャレな店があるのだが、変に浮くこともなく馴染んでいる。アメリカ西海岸風のヴィンテージなカフェのオーナーと、古くからあるだろう隣のローカルな電器屋のおっちゃんが仲良さげに話していて、いかにもモダンなパン屋のガラスには商店街のイベントカレンダーが貼ってあり、その隣には同じ商店街の本屋で開かれる朗読会のポスターが貼ってある。

何となくだが、緩やかに新陳代謝が進んでいる町なんだと思う。だから、外観的にはバラバラなのに、人のつながりにより調和が保たれている。多分、そんな町というか商店街なんだと思う。

商店街を抜け、やや急な傾斜の坂道を昇ると、敷地面積にして100坪以上はあるだろうお屋敷が道の左右に続く。お屋敷の道を抜けると、元は尾根だったであろう脊の道に出た。脊の道を歩いて行くと、途中で急な下り坂になり、下り坂を降り切ると隣の駅につながった。何か分からんが、好きな町だなって思った。

引越後、本多さんに相談した上で、家具から調理器具から何から何迄買い換える事にした。新しい俺に生まれ変わる儀式ではないが、ダメ時代の俺の感性で購入した物は全て買い換えてしまおうと思った。家電、調理器具、食器、掃除用具、家具類などなど。

一体、いつ手に入れたのかすら分からない炊飯器。多分、学生時代に買ったであろう、まな板に包丁に鍋類などの調理器具。同じく、学生時代に買ったであろう食器に、一部元妻と一緒に住んでいた家から持ち出したコップ。

掃除用具だけは若宮先生の所に行くようになってから買った物だったが、掃除機以外は全て廃棄した。家具はそもそもプラスチック製のボックスみたいなのしか無かったので、新しく購入する事にした。最初は木製の立派な家具にしようかと思ったが値段を見て即却下、結局、高級プラスチック製のチェストにした。

布団もベッドに買い換える事にした。丁度、家具量販店で、元々3万円するベッドフレームが配送時の傷が理由で1万円を切る価格で売られていたので即購入。さらに、元々は定価で5万円以上もするマットレスが在庫処分セールで半額になっていた為、コチラも即購入。

10日後、配送業者が自宅にやってきてベッドを配置したが、流石27㎡、ベッドを配置しても部屋のスペースに余裕がある。またベッドに寝るようになって気付いたが、マットレスの無しの煎餅布団に比べると段違いに寝心地が良い。

寝る場所が固定された事で、同じルーム内であっても、何となく寝る場所と起きる場所の区別というか区切りが出来たみたいで、部屋の中にもメリハリがついた気がする。

料理、洗濯、掃除といった家事を充実化させる為に、全てを「コンディショニング発想」の中に取り込んでいった。料理は、仕事のパフォーマンスという観点から栄養面に食事を楽しむという要素を加え自炊と外食の割合、自炊ならば献立に関して工夫するようにした。

掃除は、家の荒れは「メンタルパフォーマンスの乱れ」の指標として整理整頓は勿論だが、掃除そのものをVDT対策や健康管理の為のプチトレーニングに位置付けた。

だから、掃除用具も楽する為ではなく、プチトレーニングに最適な雑巾と手袋型の埃取りをメイン用具に据える事にした。洗濯は流石にコンディショニング発想の中に位置付けるのは難しかったので、効率を重視する事にした。

服も一新した。流石にスーツまで買い換える事はしなかったが、家着、下着は全て買い換えた。スーツ以外の外着は、ファッション本を参考に、季節ごとに2パターンを揃え、靴はどのパターンでも合う茶色と黒のシンプルな靴を1足ずつ揃えた。

さらに、髪型も短髪でキチッとした髪型に変え、2ヶ月に1度は理容室に行く事にした。しかし、ファッションが変わるだけでも、全然意識が変わるものだ。ハイエナコさんのお店のスタッフさんの誕生日プレゼントを買いに表参道にある有名ブランド店に行った時、以前の俺だったら気後れして足を踏み入れる事すら躊躇したであろう、あの気取った空気にも気圧されずに済んだのだ。


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