そして、ある日の清掃現場で事件が起こる。いや俺が起こす。

オフィスビルの清掃でＫ崎に行った時の事だった。珍しく、というより俺は初めて、横暴マネージャーの機嫌が良い日に当たったのだが、他のスタッフに理由を聞くと、普段は別の清掃チームに所属しているＹ子さんという３０代後半の女性が居るからなのだそうだ。

この横暴マネージャーはＹ子さんの事をやたら気に入っており、Ｙ子さんが居る時はスタッフに対する横暴な態度も取らなければ、暴力も振るわないそう。確かにこの日は作業が始まってからもずっとニコニコしていた。

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午前。俺が業務用の掃除機で廊下の掃除をしていると、その廊下の途中にある倉庫らしき場所から、Ｙ子さんの悲鳴が聞こえてきた。

急ぎ倉庫へ行くと、脚立に昇り倉庫の棚の上を掃除しているＹ子さんの下半身を、エロ汚ねえ顔した横暴マネージャーが触っているのだ。

こんなのアダルトビデオでしか見た事が無い景色だっただけに俺もビックリした。スグに横暴マネージャーに注意をすると横暴マネージャーが激高して、近くのモップを手に取り殴りつけてきた。何発かモップのモフモフ部でぶっ叩かれたものの、モップの首部を掴み捻り上げモップを奪う。

しかし、この見事なディフェンスで横暴マネージャーがさらに激高し殴りかかってくる。あわあわするＹ子さんの目の前で、横暴マネージャーの腕を掴み平手打ちを数発食らわし、背負い投げのようにして地面に叩きつけた所、大騒動に発展。

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まずＹ子さんの別種の悲鳴に気付いた他のスタッフが倉庫に駆けつけてくる。

俺はてっきりセクハラじじいを成敗したつもりでいたのだが、Ｙ子さんが背中を打ちつけ痛みで顔を歪めている横暴マネージャーの側に寄り、「大丈夫ですか？」と言いながら背中を擦りだした。

あれ？　どういう事？

続けて、Ｙ子さんが俺に「あなた、いくら何でもやり過ぎでしょ」と声を荒らげる。

あれれ、そういう事だったのね。

昼に子会社の課長がやって来て、横暴マネージャーの意見だけを一方的に聴き取り。警察沙汰に発展しそうな話の流れになっていたものの、Ｙ子さんが「マネージャーにも否があるでしょ」と言った後で、エロ汚ねえ耳元でコソコソ……。

すると横暴マネージャーが急に「最初にモップで叩いたのは僕だから、僕にも一部否があるので」と格好つけはじめ、続けて俺の方に近づき「田島、俺も悪かった」と肩を叩き、寛大な上司の演技をし始める。

最初は反論しようと思っていたのだが、肩透かしを食らい、呆気に取られている内にその場は何となく収まった。多分、子会社の課長も警察沙汰にすると面倒になるから、テキトーに収めたんだと思う。

結局、クビだけで済んだ。

しかし、迂闊だった。確かにあの２人、ハイエースで移動中の時から、何だか怪しい雰囲気だった。