【ショートショート】「バイクが故障した」
「バイクが故障した」
作 taka田taka夫
俺、森島一郎は、オートバイ……バイクに乗るのが好きだ。
車とは違い、バイクは風と一体化したような気持ちになれる。
ある者はバイクを危険な乗り物だと言うだろうが、そんなことを言ったら、この世にある乗り物はすべて危険だぜ?
しかし、まあ、ヘルメットを被っているだけで、ほぼ生身でバイクにまたがり、猛スピードでアスファルトの上を走るのが危険だと言いたくなる気持ちはわからなくもない。
だが、このスリルがたまらない。
危険との隣り合わせ。
鉄とゴムと油で出来たバイクで、アスファルトの上を猛スピードで走る……。
クレイジーかもしれないが、これが俺にとっては最高にたまらない。
今日も俺は仲間たちと一緒に、アスファルトの上をバイクで駆け抜ける。
最高のひと時だ。
どんな極上の美酒でも、ここまで俺を狂わせはしないだろう。
……だが、バイク仲間の一人、立花の乗るバイクの調子がイマイチのようだ。走っている途中、立花のバイクが止まった。
たまたま目についたコンビニの前に、俺達はバイクを停める。
エンジンが動かなくなったバイクを押す立花。
「どうしたんだ?」
すると、立花は。
「うーん。なんか、バイクの調子が悪いみたいなんですよ」
と言った。
「どこが調子が悪いんだ?」
「えーと、バイクの真ん中あたりの……あの、なんかゴチャゴチャしているところの調子が悪いんですよ……変な音出るし」
オイオイオイ。
ちゃんと自分のバイクの点検はやっておけよ。
「どれ、そのバイクのゴチャゴチャしたところを見せてみろ」
俺は立花のバイクの真ん中あたりの……なんか、ゴチャゴチャしてるところを見た。
うーむ、ゴチャゴチャしている……。
ゴチャゴチャしていて、これでは、どこが故障しているのかわからない。
「とりあえず、ゴチャゴチャしているところの調子が悪いんじゃないか?」
「そうですかねー。やっぱり、このゴチャゴチャしているところの調子が悪いんですかねー」
きっと、そうに違いない。
この真ん中あたりのゴチャゴチャしているところの調子が悪いに違いない。
すると、コンビニから眼鏡をかけた男が出てきた。
眼鏡の男は俺達に気づき、こっちに向かって来る。
俺は身構えた。
「何の用だ?」
眼鏡の男は立花のバイクに指を差す。
「あの……そのバイク、調子が悪いんですか?」
見ればわかるだろ、エンジンが動かないんだから。
「ああ。そうだが、お前には関係ないだろ……」
俺は突き放すように言った。
すると、眼鏡の男は……。
「プラグがカブったんですか?」
……。
なにを言っているんだ、こいつは?
プラグ?なんだそれ?
初めて聞いたぞ、そんな単語。
それに、プラグがカブる?
カブって、あの野菜のことか?
バイクとは関係ねぇだろ、野菜は。
こいつ、頭がアレなのか?
眼鏡の男は更に話を続ける。
「バッテリーの電気が落ちたんでしょうか?」
……。
マジでなにを言ってるんだ、こいつ?
バッテリー?なんだそれは?
野球の『バッテリー』のことか?
なんで、今、バイクの話をしているのに野球が関係あるんだ?
しかも、バッテリーと電気?
なんで、野球に電気が関係ある?
こいつ、言っていることの意味がわからんぞ……。
大丈夫か、こいつ……。
どう見ても、バイクのなんかゴチャゴチャしたところの調子が悪いだけだろう?
それなのに、プラグとか、カブとか、バッテリーとか、わけのわからない単語を言いやがって。
警察を呼んだ方が良いか?
すると、眼鏡の男は立花のバイクに触れ、バイクのなんか鍵が刺さっている部分を回した。
「あっ!てめぇ!なに、立花のバイクに触ってんだコラ!!」
立花のバイクに触れ、眼鏡の男はこう言う。
「あっ、なんだ。ただのガス欠じゃないですか。ガソリンがなくなっただけですよ」
……。
マジで本気でなにを言っているんだ、コイツ?
ガス欠?
ガソリンがなくなった……だと?
ガス欠ってなんだよ?
ていうか、ガソリンってなんだよ?
完
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