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【釣りコラム】クランクベイトのハイピッチとローピッチの一考察〜均質系素材と偏在系素材について〜

バルサウッド、ABS、発泡ウレタン、そして私が取り組んでいる 3Dプリンター…ルアーは素材や製法によって、ピッチの性質が変わることはよく知られていると思います。よく言われるのは、バルサはキビキビと、プラスチックはのったりと、というように表現されることが多いです。

しかし、他にも使われる素材はありますし、同じウッドにしても密度による違いはさまざま。また、樹脂についても製法も日々進化して色々な作り方がされるようになってきました。理論としてなぜそうなるかということを、自分なりにグルーピングして整理しようと思い、今後のルアー製作に活かしていこうと思いました。

均質系素材と偏在系素材

フローティングタイプのルアーは、密度が水より小さいもので構成されていなければなりません。そうなると、空気を内部に溜め込む構成にするのが一番手っ取り早いです。

空気の溜め込み方としては、密度を均等にできるものとできないものに分けられます。前者はウッド素材や発泡ウレタンなど組成そのものによって構成されるもの、後者は樹脂など外骨格を形成して構成されるものです。ここでは均質系と偏在系という呼び方で区別することにします。

均質系素材

均質系について、ウッド素材では細かい細胞の組織で構成されています。ややばらつきや異方性はあるものの、基本的には均質に近く密実で強固です。密度はバルサウッドで言えば0.14g/cm3程度です。発泡ウレタン素材については発泡することで緻密な泡を作り出します。

混合時の環境で発泡具合にバラつきが出ますが、概ね安定はしています。硬質ウレタンで言えば0.35g/cm3程度です。均質系と銘打っている通り、体積に均質に重量が分配されており、ルアーの大きさや形状に左右されず密度は一定です。

偏在系素材

偏在系は樹脂(プラスチック)です。密度はABSの場合、1.07g/cm3程度のため、水に沈んでしまいます。そのため、外骨格を作って中に空気を溜め込む作りとし見かけの密度を限りなく下げています。

この外骨格の部分は強度が必要なためある程度の厚みが必要になり、体積が小さくなる(ルアーサイズが小さくなる)につれて樹脂がルアーに占める割合が大きくなるため全体で見ると密度が大きくなります。また、外骨格の部分やヒートンなどのパーツが取り付けられる部分に樹脂が集中するため、ルアー内部に密度のバラつきが発生します。

均質系・・・中身が詰まっている素材のルアー

偏在系・・・空気を溜め込んでいるルアー

ウェイトバランスの設定の違い

そもそも、この2種類では搭載できるウェイトに差が生まれます。ここでは具体例として体積15cm3、表面積45cm2とする同じ浮力を持つラウンドタイプのクランクベイトで比較してみます。(下記ブログで説明している通り、体積が等しければ素材が変わろうが重さが変わろうが、浮力は同じです。)

バルサの密度が0.14g/cm3とすると、ブランクは2.1gとなり、3/8クラスのクランクベイトに仕上げようとすると、おおよそフックとリップなどの付属物を差し引いて6gくらいのウェイトを入れることになります。

一方、樹脂製では強度状、2mm程度の厚みにしていると思います。樹脂の体積は0.2cm×45cm2=9cm3となり、樹脂の密度を1.07g/cm3とすると、ブランクは9.63gとなり、ブランクだけでもバルサとはこれくらいの差が出てきます。当然、ここからウェイトを足していくのでバルサと同じサイズで作ろうとすると、自ずと1/2 オンスかそれ以上くらいの重さになってきます。

射出成形も技術がある工場ではかなり樹脂の厚みを少なくできるでしょうが、たとえ樹脂の厚みを半分にできたとしても重さは4.3gで、バルサの倍です。バルサが素材の面で優れている部分はウェイトコントロールの自由度が高く、理想のアクションを突き詰めやすいところにあるでしょう。

慣性モーメントと素材の関わり

Basser2018年11月号に並木氏がバルサクランクとプラスチック製クランクのアクションについて触れていました。

公式はF=mr2とあり、慣性モーメントについて述べているようです。(慣性モーメントはmoment of InertiaでIなのでFではなく記号Iを使うのが一般的です。)慣性モーメントは日常生活のなかからも実感できますが、同じ重さの物体でも、球であれば回転しやすく、棒や板であれば回転しにくいですよね。すなわち物体の運動のしにくさには質量以外にも質量の分布が関係し、また支点からの距離が関係しているのです。

慣性モーメントとピッチの関係

図にして見てみると、均質系は密度がどこを切っても同じなので、球体と同じく、重心に全質量が集中していると仮定できます。偏在系は、棒や板のように端っこにも重さがあるようなものと同じく、外周に質量が集中していると考えられます。

特にルアーの場合は、樹脂以外の部分は基本的に空気なので、棒や板よりは顕著に質量が偏在しています。偏在系は支点から重さがある部分までの距離がどうしても長くなりがちなので、一つ一つのモーメントは大きくなる傾向にあります。

まとめ

結論は分かり切っていることかもしれませんが、均質系の方が細かく振動しやすく、偏在系の方が大きく振動しやすいですね。より細かいアクションにしたい設定を以下にまとめます。

細かいアクションを出すために

均質系はなるべく軽い素材を使う。
偏在系は外周を薄くする。
共通でコーティングを薄くする。

そんなこと知ってるよ〜と思う方が大半かと思いますが、なぜそうなるか?を知っておくのも案外、悪くないんじゃないかと思います。


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