週刊タカギ #13

こんばんは。高城顔面です。
好調の後には不調が訪れるもので、2日半ほど家で寝込んでいました。
何事もバランスが大事……!


本日は2/23(金・祝)。一首評を掲載します。

「ありがとう」の部分を「ばかやろう」に変えて歌うとすごく気持ちいい曲

岩倉曰『ハンチング帽のエビ』(2024,私家版)

著者にとって第二歌集となる、私家版の歌集より。第一歌集『harako』(2022,TNYM books)はAmazonのオンデマンド出版システムで販売され、内容も、【愛】、【アイス】、【秋茜】……あいうえお順の項目ごとで歌が並べられているという、「岩倉曰短歌辞書」のような一風変わった試みのつくりであった(それがまた面白さを生んでいたように思う)が、本作では連作単位で歌が並べられている。文庫版サイズに約600首(公式通販サイトより、記事の最後にリンクあり)という、コンパクトながらも大ボリュームの一冊である。
個人的に、岩倉曰は多作な歌人だと感じる。X(旧Twitter)のタイムラインを見ていると、どこかしらで岩倉が歌を投稿しているのを見かける。前歌集から2年で約600首という歌集を上梓できるのも、その多作さゆえなのだろうか。しかし、多作だからといえども、岩倉の歌は一辺倒ではなく、生活詠、職業詠、奇想がよくはたらいた歌など、バラエティ性が豊かだ。

今回取り上げる歌の評に移ろう。

おそらくはカラオケの際の風景だろう。ひとりなのだろうか、気心の知れた友人といるのだろうかは、はっきりしない。

カラオケで「ばかやろう」と歌うのは、とても楽しいとわたしは思う。個人的な話で恐縮だが、SPARTA LOCALSというバンドの、その名も『ばかやろう』という曲を歌っているときなんかは最高に楽しい。


そんなことはさておいて、「ありがとう」の部分を「ばかやろう」に変えて歌うということの効力について語りたい。

「ありがとう」というワードは、売れ線のJ-POPの歌詞にありがちなフレーズである。特に、いきものがかりの『ありがとう』などは、曲名からもその代表格ともいえる曲だろう。
いきものがかりの『ありがとう』は歌詞の中に3回、サビに「ありがとう」という単語があらわれる。それを全部「ばかやろう」に変えてやったら、相当に開放的な感情のサビになるだろう。
これよりもっと「ありがとう」の比率が多い曲になると、より攻撃性が増すだろうし、「ありがとう」が1回きりの曲でも、それはそれで、えっ?という裏切り感が出て楽しい。むしゃくしゃしたときなんかにやってみると、どう転んでも面白くて、どこかスッキリするような感情になるだろう。ひとりでも、気心知れた友人とでも楽しいだろう。

そうした生活の中のちょっとした処世術、もしくは抜け道というようなものを見つけてみたり、人間らしく、へこんだり、穿った目線で見てみたり、消耗したりもする。というか、むしろ後者のような歌が多く収められている。岩倉の歌にはそんな人間臭い視点をひしひしと感じされられるのだ。

ほかに好きだった歌をもう少々。

夏空に通信料が吸い込まれきらきらしてる 今月のばか
そうじゃない他人に比べしゃべるとき「あっ」って言っちゃう他人が好きだ
結局は自分が一番なのだけど二番以降も大事にしてる
おこげには日サロ帰りの七人の神様がいてほんのりパリピ
YO!YO!YO!YO!と生えてた豆苗も三回目ともなるとyoyoyoyo

他にもグッとくる歌がたくさんある。『ハンチング帽のエビ』はいまのところ、岩倉の運営する通販サイトで、限られた部数を販売しているようなので、これらの歌が気になったあなたはぜひ購入して、読んでみてもらいたい。なるべくお早めに。

https://wkwkiwk.base.shop/


次回更新は、3/1(金)。短歌を掲載予定です。

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