光吉俊二氏との運命的出会い一道徳科学と道徳感情数理工学との接点を探る共同研究

 10月13日、私が代表で共同研究を進めている「ウェルビーイング教育研究会」をモラロジー道徳教育財団の道徳科学研究所で開催し、東京大学大学院工学系研究科道徳感情数理工学社会連携講座特任准教授の光吉俊二氏が、「道徳と四則和算」について講演した。光吉俊二氏はAIペッパーくんの感情モデルの開発者として有名である。
 講演後、中山理麗澤大学大学院特別教授(前麗澤大学学長)をはじめとする道徳科学研究所の研究者との本質を衝いた活発な質疑応答が行われ、疑問点を解明しさらに深めるために、来月の研究会には『東大理系教授が考える道徳のメカニズム』(KKベストセラーズ:ベスト新書)の著者で東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻の鄭雄一教授に講演していただくことになった。
 光吉俊二氏は2006年、「音声感情認識及び情動の脳生理信号分析システムに関する研究」で学位を取得。スタンフォード大学バイオロボティクス研究所Visiting Scientist、慶應義塾大学上席研究員を経て現職。京都大学の哲学科
から招聘要請があるようであるが、私が高校時代に心酔した西田幾多郎をはじめとする「日本学」の哲学と光吉俊二氏の道徳感情数理工学が直結していることは極めて興味深い。
 光吉氏の専門はST(Sensibility Technology:感性制御技術・音声感情認識技術)で、特に、1999年から韻律からの音声感情認識を「情動計測の基本原理として自律神経と音声発声の人体構造の関係」から確立し、科学として未到達であった感情の定量計測において、ベンチャー企業として商品化し、2つの株式会社の代表取締役も務めた。
 光吉俊二氏は感性制御技術において工学技術としての感性と感情の研究の重要性を説き、独自の調査による4500語に及ぶ日本語での心的表現言語と英語での心的表現言語225語を割り振り「感情辞書」を作成した。
 また、感情と脳生理反応の生理指標との関係を探り、脳や身体にある物質と感情や身体反応の比較マトリックスを作り、そのマトリックスから「感情地図」を作成した。この成果がMITスローンスクール終身名誉教授のエドガー・シャイン氏に高く評価され、スタンフォード大学に招聘されたのである。光吉氏によって感情認識ヒューマノイドロボットPepperの「人工自我」プログラムが作成された。
 東大医学部では「心と感情」の共振・共鳴といった心理的事象を情動のホメオタシス(身体の外から受ける環境や内部の変化にもかかわらず、身体の状態を一定に保つ生体恒常性。詳しくは、『道徳教育学研究』創刊号の創刊記念論文の拙稿「感知融合の道徳教育についての一考察』麗澤大学道徳教育学会2020年度研究紀要並びにホリスティック教育と感性教育、西田幾多郎哲学等について明星大学の『教育学研究』に連載した10本の論文参照)として解釈し、「非線形状態の生理情報を線形に量連鎖で記述する演算子」として、光吉演算子を使い、脳と情動とホルモン・生体物質に基づいて工学的解明を目指す研究が活動の中心となり、光吉氏の研究はWHO(世界保健機関)からも高く評価されている。
 光吉氏は国連からも講演を依頼され、SDGsに代わる新たなビジョンの提案を要請されている。「ウェルビーイング教育研究会」の第1回講師として講演していただいた石清水八幡宮の田中朋清権宮司も国連事務局長から「SDGsには哲学が欠落しているので、神道の鎮守の森の思想で補ってほしい」と要請されている。奇しくも同研究会に招聘したお二人がSDGsからウェルビーイングへの転換という時代の要請に応えることが期待されている。
 
 また、光吉氏の主要な研究成果である音声感情認識は、(株)AGIの感性制御技術である「ST」の基盤となっているとともに、NEC・NTT・KDD・INICT・トヨタ・日産・ホンダなどとの共同研究も行なわれ、ビジネス展開が急速に進んでいる。
 また、NECが開発した「言花」、セガが発売したニンテンドーDS「コロスキャン」のキーテクノロジーとしても利用され、注目を集めている。
 光吉氏は多摩美術大学の彫刻科卒で、彫刻素材からの研究開発をすることににより、ポリマーコンクリートを用いた作品の発表を行うことで、重力に逆らった構造を持つ彫刻表現を確立した。光吉氏の代表作は、桜田門の法務省赤レンガ庁舎の外装・屋根飾り窓、正門デザイン制作とJR九州の駅前彫刻、NICT関西先端研究センターモニュメント、JR大宮駅東口通りモニュメントなどで注目を集めている。

 この異色の研究者が9月21日に私の自宅マンションを訪問されたことが、体調のすぐれなかった私が一念発起する契機となったことは神縁と言わざるを得ない。その縁結びをしてくれたのは、私の敬愛する内海昭徳氏であった。内海氏は筑波大学で国際関係学を学び、京都大学大学院人間・環境学研究科環境相関研究専攻で学んだ俊英で、私が全国4会場で理事長・塾長として教師の人間力向上を目指して尽力した「師範塾」の塾生でもあった。
 光吉氏と麗澤大学、モラロジー道徳教育財団との出会いは画期的であり、光吉氏と麗澤大学学長を表敬訪問した折に、工学部への助力要請もあり、光吉氏はキャンパスの環境や道徳科学研究所にも大きな関心を示し、今後連携を深めることが両者で確認された。
 10月13日の講演後、参加者との懇親会が行われ、今後、光吉・内海氏と共同研究を行うことになった。田中権宮司にもこの共同研j究に加わっていただき、モラロジー研究所の創立百周年に向けて、「四則和算」を中核とする光吉氏の「道徳感情数理工学」と廣池千九郎の「最高道徳」、私の研究テーマである「感知融合の道徳教育」との接点を解明し、問題提起していきたい。
 私はライフワークとして、感性・脳科学研究に取り組み(感性教育研究所、感性・脳科学教育研究会を主宰し、理論面では感性とは何かについて哲学的・科学的研究を積み重ねてきた)、5年前から同研究を基盤にして道徳教育の理論と実践を体系化する「道徳教育学」の樹立に向けたささやかな研究に着手したが、光吉氏との出会いによって、研究が飛躍的に前進することに感謝し、我が人生を締めくくる最後の御奉公を全うしたいと念願し、決意を新たにしている。


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