「共に変容する」教育再生一親と教師が日本を変える

●学校・教師・親・教育委員会を元気にする15の提言
「親学」誕生の直接的契機になったのは、平成17年1月に立ち上げた「PHP教育政策研究会」(髙橋史朗主査)であった。10か月に及ぶ議論を踏まえて、教育提言「活力ある教育の再生を目指して一学校・教師・親・教育委員会を元気にする提言一」を発表し、翌年に『親と教師が日本を変える一一人ひとりの教育再興一』(PHP研究所)を出版した。
提言の要点は以下の通りである。
⑴    学校を元気にするために
<提言⑴>校長等管理職の実質的な裁量権の拡充とその権限を実際に行使できる環境づくりを進める。
<提言⑵>校長の学校経営を支援する「学校経営コンサルタント」の養成、導入を推進する。
<提言⑶>業務コンサルタントを導入し、校務分掌等教師が担う業務を根本から見直す。
<提言⑷>「学校支援基金」を設置するとともに、学校が提携や寄付を受け付けやすい仕組みづくり、制度の整備を図る。
⑵    教師を元気にするために
<提言⑸>教員養成課程のカリキュラムを抜本的かつ早急に改革する。
<提言⑹>優れた教育力、実践力、人間力を有した人材を得るため、柔軟かつ多様な教員採用の方法を確立する。
<提言⑺>「授業研究」など自主的な研修の研修単位化や民間の研修を幅広く導入する 等、教員研修を多様かつ実践的なものにする。
<提言⑻>教師の意欲と教育力向上のため、教師の教育力を評価するNPO法人等第三者機関を設立する。
<提言⑼>教師の能力発揮の機会を拡充するため、教師の移籍が全国的に柔軟に行える制度を整備する。
<提言⑽>部活動等体験活動の充実を図るため、教師の処遇の改善と支援組織を設ける。
<提言(11)>教師の持つ高い専門性と使命感を政策に反映させ、教育環境の改善を図るため、教師による新たな職能団体を発足、育成する。
⑶    親を元気にするために
<提言(12)>学校を、地域の親や子供が集い、親としての育ちを図る「親学の拠点」として活用できるよう施設、制度の整備を進める。
<提言(13)>親への情報提供や指導、親と学校・教師の協力関係構築の支援を行う「親学アドバイザー」を育成し、各学校に配置する。
⑷    教育委員会を元気にするために
<提言(14)>教育委員の選任において公募制や公選制の導入を図るとともに、教育委員がリーダーシップを発揮できるように教育委員会の運営の仕方を改める。
<提言(15)>地域の教育行政の要として自立的な行動が行える新しい時代にふさわし い教育委員会事務局を再構築する。

●「研究」はある「修養」がない教員「研修」
 この「主体変容」すなわち、「一人からの教育再考」を目指す提言を実現すべくPHP親学研究会(髙橋史朗主査)が発足し、1年間の議論を集約して『親学の教科書』(PHP研究所)を出版して、この親学理論を実践するために、平成18年12月に親学推進協会を設立するに至ったのである。
 PHP教育政策研究会のメンバーには、文科省・国立教育政策研究所・教育改革国民会議事務局・内閣府「人間力戦略研究会」委員や後に埼玉県教育委員長に就任した不登校指導の専門家などが含まれていた。東京・埼玉・大阪・福岡で開塾した師範塾や感性・脳科学教育研究会もこの「一人からの教育再興」の理念に立脚している。
 感性・脳科学教育研究会は、政府の臨時教育審議会の第一部会で懇意にしていた金杉秀信(元全国造船重機械労働組合中央執行委員長、全日本労働総同盟副会長)とUIゼンセン同盟幹部が、日教組に代わる新たな教員組合を結成したい、と相談に来られた際に、これからは労働組合ではなく、イデオロギーを超えて教師が元気になるような「主体変容」を促す教員研修の場を作ることが求められていると説得し、UIゼンセン同盟内に事務局を置いて、日本財団で同研究会と公開セミナーを開催することになった。
 労働組合ではない教員研修の場が必要だと考えるようになったのは、教員「研修」に「研究」はあるが「修養」が全く欠落しているからである。この点を踏まえて、前述した提言(11)では、次のように述べている。

 「教育の改善、改革には、教育現場で日夜努力を続けている教師の声を適切に生かすことが極めて大切である・これまでこうした役割は教師の労働組合が担ってきた側面もあったが、労働環境の改善と教育の取り組みは本来切り離して論じるべきものである。そこで、教師の持つ高い専門性と使命感を政策に反映させ、現場からの健全な教育政策提言や教育環境改善の要望を具体的な政策に生かすことができるよう、教育委員会と定期的に協議する教師による職能団体を発足させ、育成する。教育委員会は定期的に協議する教師による職能団体を発足させ、育成する。教育委員会は、教師によって設立されるこの職能団体が、研修、授業・教科の研究活動、政策提言等において主体的な取り組みができるよう支援する。」

●学校を「親学の拠点」とし、「親学アドバイザー」を配置する
また、親学に関する提言(12)は、次のように指摘している。

 「今日の親が親としての学びを十分に得ていないのも、これまでの教育あるいは社会に一因があるからである。そこで、…子供の発達段階に応じた関わり方を脳科学の最新の研究成果に学びつつ、親としての育ちを図っていくための「親学の拠点」として、施設、制度の整備を進める。あわせて、地域と学校の良好な関係づくりの場として積極的に活用する。」
 
「親としての育ち」すなわち。「親育ち」支援の視点に立って、学校を「親学の拠点」として活用できるよう施設、制度の整備を進めるという構想は、親学推進協会並びに、親学推進議員連盟に受け継がれた。
さらに、親学推進協会が日本財団の助成を得て約千三百名育成した「親学アドバイザー」の原点は、以下のような提言(13)にあった。

「子供の健全な育成、学校教育壽実のためには、学校・教師と親の相互理解、協力が不可欠である。また、家庭の教育力が弱まっている昨今の状況から、学校には家庭教育の支援を行うことも求められつつある。そこで、各学校に教師とは別に親としての育ちを支援する「親学アドバイザー」を配置する。「親学アドバイザー」は、教育の第一の担い手・責任者である親に対して、各家庭での躾・教育問題、睡眠や食事などの生活習慣等に関する情報提供、指導、あるいは親自身の育成を目的とした研修会の開催を独自に行うとともに、学校に対しては授業参観、保護者懇談会、定期的家庭訪問等の運営支援を行い、親と学校・教師間の課題の共有化と良好な関係づくりを担う。なお「親学アドバイザー」には、子育て、教育に関する見識に加え、カウンセラーの素養を備えた適切な人材を育成、登用する。」

●親学の先駆的取り組みを切り拓いた親学会と奈良県教委
 「親学」は私が初めて提唱したものではなく、2001年の5大学学長会議でイギリスのオックスフォード大学のジェフェリー・トーマス学長が、「学校でも大学でも教えていないのは、親になる方法だ。・・・親としての教育にもっと関心を向け,向上させることには、大きなメリットがあるのではないか」と発言したことが読売新聞で大々的に報じられ、同年に日本で「親学会」が発足し、平成16年に親学会編・高橋史朗監修『親学のすすめ一胎児・乳児期の心の教育』(モラロジー研究所)を出版(野々村守春・外池容氏のご尽力による)したことが契機となり、同年の中央教育審議会の審議経過報告にも次のように明記された。
 
 「家庭の教育力の向上を図るためには、学校や地域において、できるだけ早い段階から、親になるための学習の充実を図るとともに、親になった後も・・・親が親として育ち、力をつけるような学習を大幅に充実するための方策を検討することが必要である。」

 「親学」をわが国で最初に採用したのは奈良県教育委員会で、平成12年(2000年)に知事の意向により生涯学習課から独立して家庭教育部が設置され、平成14年に有識者による研究委員会によって『親学サポートブック』が作成された。
大阪府教育委員会や滋賀県・兵庫県・栃木県教育委員会なども全国に先駆けて「親学習プログラム」「親育成講座」「「親育ち学習」など独自の講座を開催しており、埼玉県教育委員会も、「親が学ぶ拠点」としての学校一親としての学習、親になるための学習を「教育改革アクションプラン」に明記し、全国の「親の学習」プログラムの内容と効果などを調査・研究し、独自の「親の学習プログラム」し、指導者育成に力を入れた。
●禍を転じて福と為す
 こうした草の根的に全国に広がった動きを受けて、平成24年3月14日に国会議員による「親学推進議員連盟」設立準備世話人会が発足し、自民党の下村博文、馳浩、山谷えり子、民主党の鈴木寛、笠浩史、鷲尾栄一郎、公明党の池坊保子、みんなの党の江口克彦、たちあがれ日本の中山恭子議員が就任した。
 そして、4月10日に同議員連盟(安倍晋三会長)設立総会が開催され、「日本人の精神的伝統を親学として蘇らせた」設立趣意書を採択し、「親の学び・親育ち」支援策を推進し、「親になるための学習」を全国で展開するなどの具体的政策提言を6月に発表するための勉強会を4回開催した直後に大波乱が起き、同議連が解散の止むなきに至ったのは、まさに「青天の霹靂」であった。
 その事情については今は明らかにできないが、いずれ「親学つぶしの元凶」の正体を明らかにしたい。この悲運によって、私は親学推進協会理事長を辞任し、明星大学の教授会出席や大学関連の雑務から解放され、ゼミの授業だけを担当する身分に変更する立場を選び、授業のない時には訪米して「在米占領文書」研究のライフワークに戻る決意を大学に伝えた。
 給与は八百万円に大幅に減額されたが、それ以降の在外研究によって、『WGIPと「歴史戦」』(モラロジー研究所)、『日本が二度と立ち上がれないようにアメリカが占領期に行ったこと』(致知出版)、『「日本を解体する」戦争プロパガンダの現在』(宝島社)というWGIPの三部作を世に問うことができたことは幸せなことであった。
 モラロジー専攻塾の研修には第2期生から関わっていたので、廣池幹堂理事長と何度かお会いする機会があり、幸運にも麗澤大学大学院、モラロジー道徳教育財団に転職させていただくことになり、心より感謝している。「親学つぶし」の悲運に出会わなければ、明星大学を70歳で定年退職し、今頃は多摩川沿いの遊歩道をのんびりと散歩する日々であったと思われる。
 西岡力先生とともにモラロジー道徳教育財団教授に任命していただき、一昨年10月1日付けで麗澤大学特別教授の辞令も拝受した。名ばかりの名誉職にならないように、残りの人生において御恩返しのためのささやかな貢献ができるように微力を尽くしたい。創立百周年に向けて、麗澤小学校の開校、教育学部の創設、ウェルビーイングと道徳教育、並びに感知融合の道徳教育の理論と実践の往還のモデル構築など、歴史的事業のお手伝いができればと念願している。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?