「道徳思考のつくり方」の理論と実践一テーマ「ウェルビーイングと道徳教育」

 昨日東大大学院の鄭雄一教授と光吉俊二准教授の研究室を訪ね、6月30日の日本道徳教育学会(第103回大会、北陸大学、大会テーマ「ウェルビーイングと道徳教育」)の「ラウンドテーブル」で共同研究発表する内容について協議した。
 時代は今、「VUCAの時代」と呼ばれるAIの普及、環境変動、紛争など次々と激しい変化が起こる予測困難な時を迎えている。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の4つの単語の頭文字をとった言葉である。
 日本では中央教育審議会の答申を受け、「個別最適な学びと協働的な学び」の実現に向け、変革が進められている。道徳教育についても、授業研究を中心に個別最適な学びと協働的な学びの一体的な指導の研究が盛んである。
 一方、OECD(経済協力推進機構)は1997年からDe Se Co(Definition and Selection of Competencies;コンピテンシーの定義と選択)プロジェクトを始めた。そして、ウェルビーイングをOECD Education 2030プロジェクトの目標とした。
 児童生徒は、コンピテンシーを身に付けて、ラーニング・コンパスを用いて歩んでいく。その目標地点にはウェルビーイングが位置付けられている。また、OECDは自分と他者そして社会のウェルビーイングの実現に向けて、エージェンシー(変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任をもって行動する能力)を発揮して、個人から社会へと発展させていくことを求めている。
 こうした現状において、日本の道徳教育はウェルビーイングの実現に向けて何ができるのか。個人のウェルビーイングと道徳教育の関係性をどのように捉えたらよいか。さらには、人生を幸福にするために、よりよく生きる意欲を育てる道徳教育とはどういうものなのか。これが大会のテーマである。
 昨年、モラロジー道徳教育財団道徳科学研究所の共同研究「ウェルビーイング教育研究会」(代表・髙橋)で、両教授らを招いて「ウェルビーイングと道徳教育」の関係について研究を積み重ねてきた成果と、これらの先駆的研究を道徳教育の授業として実践化してきた髙橋塾の小学校教師有志の先進的な実践発表を中心に、画期的な問題提起を行う予定である。
 具体的には、まず鄭雄一教授が「道徳思考のつくり方」について問題提起し、この総論を踏まえて、光吉俊二准教授が「道徳思考の数理化」について四則和算や「哲理数学」(京大に開設される「哲理数学」講座を担当予定)という独自の問題提起を行い、この二つの理論とウェルビーイングカードを使った道徳授業の実践発表を行う。
 6月5日にモラロジー道徳教育財団道徳科学研究所のモラルサイエンス研究会で、鄭雄一教授から「AIと道徳」の関係について講演していただくが、同教授は「最高道徳」の道徳エンジンをAIロボットに搭載して、「お父さん、お母さんはどうして、ロボットのようにできないの?ロボットの振り見て我が振り直せ」と問いかけてはどうか、というユニークな提案をされている。
 道徳について科学的に研究することを目指すモラルサイエンスの視点とウェルビーイングとの関係も興味深いテーマである。百周年記念シンポでこのモラルサイエンスの視点から「ウェルビーイングと道徳教育」の関係について、京大大学院の内田由紀子・廣井良典教授らも交えて議論できればと願っている。

 ところで、昨日のnote拙稿で述べたように、「心不全」で日赤医療センターに緊急入院した義母の容態が安定し、急速に回復したので、4月23日に退院し、渋谷の自宅マンションに戻り、義母の強い希望により郷里である埼玉県秩父市の特定施設に入所することが決定した。新たな人生のスタートである。

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