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summer madness

暑い暑いと口にするのにはもううんざりしているはずなのに、
屋外で陽射しを浴びるとやっぱり出てくる「暑い」の言葉と、額の汗。

自由が丘で電車で降りた僕は、スタジオまでの道のりを少しだけ遠回りしてみる。

この角には古本屋があった、ここには何度か行った雑貨屋があった、なんてひとりごちながら、もう何年も訪れていなかった町を見渡してみる。

過去にもnoteに綴ったが、この町には「六文銭」という喫茶店があった。
不思議で素敵な独特の雰囲気の内装の、僕の好きな苦い珈琲を出してくれる店だった。

中学生の頃に見た深夜番組で、大江千里さんが訪れて座ったその店の席に僕も座りたい、という気持ちだけで初めて入り口のドアを開けてから、大人になってからも度々、六文銭に足を運んでいた。

何年か前に六文銭がなくなってしまった事はネットの情報で知っていたが、なんと今は、その店の前にあったマクドナルドもなくなっていた。
でも、高校の帰りに週3〜4くらいで通っていたカラオケはまだあった。同級生の山内くんとカツアゲされそうになったゲームセンターも、名前は変わっていたけれどまだあった。

変わってしまった風景、変わっていない風景を縫うように歩き、当時の記憶に思いを馳せた。

そして今日の目的地であるスタジオは、高校生の頃にバンド練習で何度も通った場所でもある。

意識し出すと相当大きく聞こえてくる蝉の声と、昼間のムンとした熱気に包まれた身をよじりながらたどり着いたスタジオは、不思議と当時と同じだった。
しばらく表を歩いたせいで噴き出た全身の汗が冷房で冷やされて心地良くなった頃に、僕がサポートバンドとして参加するリハーサルが始まった。
今回で2度目の参加となるアーティストさん。アコ編成のアンサンブルは、楽しくもなかなか大変で、終わった頃には暑さとは別の理由でじんわり出てきた汗を手の甲で拭ってみる。
なかなかハードになりそうな予感がする今年の夏である。

あの当時は今よりもっと、
向かい側のプラットホームが、
ドラマチックに思えていた。

ちょっと気持ちが向いた時に、サポートしてもらえたら、ちょっと嬉しい。 でも本当は、すごく嬉しい。