「樹木の恵みと人間の歴史」読了

最近、家の庭を整備している。「庭の整備」といっても、我が家の敷地は500坪あり、森の中にある。しかし標高が高く、寒いために生えている樹木はもっぱら常緑針葉樹で、暗く、冬になっても葉が落ちないために地面の多様性はない、森としてはあまり状態も良くない。庭の整備はさながら森づくりだ。

今ある樹木を伐採し、広葉樹の苗木を植えようと計画しているのだが、あまりドラスティックに変えてしまうのも、その土地由来の雰囲気を壊してしまうことが心配なのと、切っていくうちにできる切り株がいい雰囲気を醸し出しているので、これをどうにか利用できないだろうかと、考えている。そしてただ綺麗な森を作るのではなく、何か物語を作れないだろうかと考える中で手に取ったのがこの本だ。

本著では、樹木医である著者が「萌芽更新」にちなんで、様々な地域での実例を紹介していく。ただ、萌芽更新の上手なやり方を紹介するわけではなく、「木との付き合い方」のような実例集と言えるだろう。

漁船を持続的に作るための、森づくりや、樹木がひたすら増殖する話から、古さと新しさが同居している樹木の特性の話、木々の伐採と芽吹きのスピードから農業の進行が決まっていること、日本の里山の萌芽林など数多くの樹木との付き合いが描かれている。歴史的に樹木と人間が付き合ってきたことが示される。

訳者のあとがきにもあるように、木材がどのように使われて、それによって文明が支えられてきたことに関する本はあるけれど、人が樹木と対話を続けていれば、それに樹木が答えてくれることに着目した本は少ないだろう。

私たちの生活は技術の発展によってバイオマスや自然由来のエネルギーが注目されつつある。これは私たちの自然との新しい付き合い方と言えるだろう。樹木を守ることは地球環境によく、道徳的に大切にしなければいけない考えることも自然との付き合い方の一つだ。しかし「大事だから大切にしなさい」と言われても、実益がなければ納得し難い。

しかし、本著で示されるように全世界で培われてきた樹木との付き合い方、そしてその付き合ってきた樹木がまだ存在しながら、生活を支えてくれているということを知った時に、新しい技術が到来したとしても、身近な喜びを与えてくれるのではないだろうか。

私たちは樹木の大切さということは耳にタコができるほど、聞かされている。しかしそれはただ、野放しに成長すると勘違いしたときに、容易に樹木との関係性を私たちは忘れてしまう。

身近に自然エネルギーが増える中で、本著を読むことで、私たちはもう一度、自然との付き合い方を連続的に捉え、自然への意識をより逞しくしていくことができるだろう。


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