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ワーケーション支援による分断

ワーケーション事業に巻き込まれそうなので、今のところの考えをメモ書き。なお、個人や民間企業がやる分にはどんどん進めてほしいけど、公共政策としてワーケーションを進めるのはどうなんだろう?という立場。

産業分類による対象者の限定

イギリスの経済学者であるコーリン・クラークは、産業は、第一次産業(農林漁業)、第二次産業(製造業等)、第三次産業(サービス業等)に分類した。この分類の中で、第一次産業と第二次産業の従事者は、職場(農地や工場など)が特定の土地に紐付いているため、ワーケーションが難しい。

社会階層による対象者の限定

行政学者の金井利之は『コロナ対策禍の国と自治体:災害行政の瞑想と閉塞』(ちくま新書、2021)において、社会全体を対象にしたコロナ対策(緊急事態宣言やまん延防止等措置など)を「投網型鎮静」と呼び、それは社会全体を対象としながらも社会階層によって異なる作用をもたらすと主張した。ワーケーションを考える際にも、金井による社会階層の分割は参考となる(以下は、同本125-128頁をもとに記述している)。

1つめは「標準階層」である。典型は、テレワーク在宅勤務者と年金生活者とされる(「標準」と言いながら、第一次産業や第二次産業従事者は除かれている点がミソである)。ただし、在宅に伴う家事・育児・介護の問題が発生し、これに従事する場合には、後述する従事階層に近い位置づけになる。そして、家族内のジェンダー関係から、男女間で不公平が生じることが多い。

2つめは「自由階層」である。典型は、国・自治体の為政者上層部や報道機関・一部専門家・一部芸能関係者とされる。彼らは、他者に自粛を呼びかけながら、自身は在宅勤務や外出自粛はしない。

3つめは「不安定階層」である。典型は、非正規雇用、フリーター、個人事業主とされる。営業自粛・外出自粛によって、社会経済が縮退し、仕事・雇用・稼得が失われる。

4つめは「従事階層」(エッセンシャルワーカー)である。典型は、介護施設・児童施設、役所・役場の相談窓口、運輸輸送業、必需品小売業とされる。彼らは、仕事・雇用・稼得は維持されるが、対面接触の業務が続くため、感染リスクを追う。なお、正規/非正規によって、さらに区分できる。

5つめは「医療階層」である。典型は医師・看護師とされる。彼らは「従事階層」と同様にエッセンシャルワーカーではあるものの、感染リスクが大きく異なる。そのため、その仕事が称賛される一方で、社会的には排除(隔離)される。

これら5つの社会階層のうち、ワーケーションの対象となるのは標準階層(かつ家事・育児・介護の問題がない者)となる。標準階層以外の人々は、ワーケーションをすることが難しい。自由階層は知らん。

ワーケーションは誰にでもできるわけではない

ここまで見てきたとおり、ワーケーションは誰にでもできるわけではない。というよりも、社会を支える仕事(家の外/家の中どちらも)をしている人ほど、ワーケーションはしにくい。それにも関わらず、地方自治体が、都市部のワーケーションが可能な人に対して、ワーケーションに関する金銭的インセンティブを与えることは、公共政策(税金の使い方)としてどのように正当化されるのだろうか? そんなに簡単ではない気がするのだが、どうなのだろう。

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