年二回

 福岡県筑紫野市の老舗旅館「二日市温泉・大丸別荘」が、大浴場の湯を年に2回しか入れ替えず、県の調査に虚偽の説明をしていたことが発覚しました。その上、なんとも残念なことに、社長自らお湯を入れ替えないよう指示していたそうです。その報道を、普通に浴槽にお湯を溜めるお風呂をイメージして聞くと、ちょっと常人では考えられないようなことで、指示する社長もそうですが、指示通り動いてしまう従業員もどうなのかなと思ってしまいました。いや、もしかしたら、社長とぶつかって退職した従業員さんもいらっしゃったのではなんていう想像にも至りました。

 よく調べてみると、この旅館の大浴場は温泉をかけ流し一部を循環ろ過させているとのことでした。県条例では連日使用する循環浴槽については、全てのお湯を取り換える「完全換水」を週一回以上行い、塩素濃度を1リットルあたり0.4㎎以上にするよう定められているそうですが、新しいお湯も入っているし、私が想像したような悲惨な状態ではなかったのでしょう。それでも基準値の3700倍のレジオネラ菌が検出されたというのですから、尋常ではありません。

 大丸別荘のホームページを見てみると「自然の川と滝つぼをイメージした源泉掛け流しの大浴場」と書いてありました。「源泉掛け流し」というのはよく聞きますが、要は、温泉がどんどん流入してきて、浴槽からあふれてどんどん流れていくというイメージでした。ちょっと定義を調べてみると、「日本源泉かけ流し温泉協会」のホームページに、私が想像した通りのことが書いてありました。源泉とは温泉法で定められた温泉であり、所有する自家源泉か共同源泉からの引き湯を使用していることが条件で、掛け流しとは新しいお湯を常に浴槽に注ぎ、注がれた分だけ湯が浴槽の外にあふれ、あふれた湯は決して浴槽に戻さないこと、湯量の不足を賄うために、浴槽内で循環ろ過させないことが条件だそうです。こうなると「源泉掛け流し」と謡ってよいのやら、怪しいものです。

 またホームページには「万葉集にもうたわれた歴史ある温泉」とも書かれていました。この旅館が万葉集に謳われたのかと思いましたが、二日市温泉全体をうたったのが大伴旅人の「湯の原に 鳴く芦田鶴は 我が如く 妹に恋ふれや 時わずかなく」という歌なのだそうです。二日市温泉の他の旅館は大迷惑しているでしょうし、それだけ歴史のある温泉という看板にも泥を塗ってしまったということですね。うーん、なんとも残念な話です。

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