闇の先へ12

浴びるほど酒を飲むことは、明らかに体に悪いことを知っている。しかも先日の健康診断で、どうも俺は長生きできなさそうな体であると分かった以上、多少は労わらねばならないことも知っている。だがそれがどうした?アルコールは大脳に強い悪影響を与えて、人間の理性を司る大脳を徐々に削り取ってしまうらしい。だがそれがどうした?どうせ人は死ぬ、多少の長さの違いはあれども、死ぬ。それなら、この酩酊の中でのみ見える光景に、その数年か数十年分を賭けるくらいの傲慢さは許してくれ。

バッハが轟音で鳴り響く。天上の音楽だ。おそらくバッハには神が見えていた。その見えていた神を形にしたのがグールドだ。グールドが弾く平均律、イギリス組曲、ゴルドベルグが、夜の闇の中に吸い込まれていく。その先が神に届く様を俺は全身で感じる。それがただ、アルコールのもたらす奇妙な誤解であることを重々承知して尚、他では代え難い感覚のために、俺はさらにアルコールを浴びる。もはやもう味も濃度も関係ない。俺の脳を、このどうしようもない意識を焼き切ってくれるものならなんでもいい。奥深くに隠された本能を引き摺り出してくれるものなら、なんでもいい。

わかっている、明日俺は後悔する。深く反省する。ただその反省が生きられる時間はせいぜい数時間だ。また明日の夜、俺はこの酩酊を求めてアルコールを血に流し込むのだろう。

闇の中で、光はまだ遠い。

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