名牝エアグルーヴの血を継ぐルーラシップ産駒の特徴とは

90年台に競馬を始めた私の周りの競馬ファン世代は、今でもエアグルーヴを最強牝馬に挙げる人が圧倒的に多い。実は私もその一人である。エアグルーヴの強さは、「古馬になってから牡馬と真っ向勝負をして、互角以上に渡り合った」ということに集約される。牝馬にとって、古馬の牡馬と戦うことは非常にツラいことである。牝馬と牡馬では威圧感がまるで違うため、ほとんどの牝馬は古馬の牡馬と戦うともみくちゃにされてしまい、3歳時の輝きは色褪せ、古馬になって全く走らなくなってしまう。苛酷な戦いによって、心臓発作や心不全を起こしてしまうことさえある。それほど、古馬の牡馬と戦うこと自体が、牝馬にとっては厳しいことなのだ。

エアグルーヴが4歳時に勝利した天皇賞秋は、サイレンススズカが速く厳しいペースで引っ張り、長い直線でのバブルガムフェローとの叩き合いを制した激しいレース。充実期にあったバブルガムフェローを競り落としたことが衝撃的であった。しかも、牝馬特有の切れ味で差し切ったのではなく、スピードに任せて逃げ切ったのでもなく、最後まで牡馬の超一流とビッシリと叩き合い、競り落としての勝利であった。

写真家の藤原新也さんは、かつて標高4000mのチベットのこれ以上青くしようのない、真っ青な空の下で暮らして以来、下界に降りて、いかなる土地に行っても空が濁って見えるという宿病を背負ったという。私たちもエアグルーヴという牝馬と出会い、その走りを目の当たりにして以来、他の牝馬のいかなる走りを見せられても霞んで見えてしまうという宿病を背負った。私たちの名牝の時計は、エアグルーヴから止まったままなのである。

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治郎丸敬之

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