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【妄想シチュエーション#8】思い出の体育祭「全員で跳んだ、長縄跳び」

※この記事は、知人のSHOWROOM(URL:https://www.showroom-live.com/118951049549)で毎週水曜日に開催されている企画「妄想シチュエーション」に応募したラジオドラマ作品です。


オレの中学校では、毎年9月に体育祭がある。
午前中に各学年それぞれで短距離走、中距離走、障害物競走といった個人種目をやったのち、午後は全学年の1組で赤連合、2組で白連合という縦割りのグループを作り、綱引き、玉入れ、長縄跳び、そして短距離リレーという4種目の団体競技と、先生方が投票で採点する応援合戦で紅白対抗戦をやるのが、伝統だ。

そのうち午後の4種目については、綱引きと応援合戦が全員参加、ほかの3種目についてはどれか1つを選んで参加することになっており、柔道部かつ大柄なパワーファイター系のオレは、1年と2年のときに引き続き、今年も長縄跳びで回し手に立候補した。
しかし、悲劇はある日、突然起こった。

ドサッ。
(コヤマ)「う~、痛い…右手が動かない…。」
体育の時間での障害物競走の練習中、ぐるぐるバットで目を回したオレは、そのまま右肩から地面に落ちてしまったのだ。
すぐに学校を早退して病院で診察を受けたのだが、その結果は…、
(モブ医師)「肩鎖(けんさ)関節の脱臼ですね。しばらくの間、右肩は動かせないと思います。」
オレは愕然とした。しばらくって…体育祭まであと2週間しかないのに…?

肩鎖関節の脱臼。早い話が、肩の強打などで鎖骨の先端が通常より飛び出てしまった状態のことだ。
見た目上は、鎖骨のアタマが盛り上がったくらいのものだが、その痛みはとても言い表せないもので、ケガしてから1~2週間は、激痛で肩を回すどころか腕すらほとんど動かせない。

翌日、病院でもらった三角巾で右腕をつるし、長縄跳びの練習に参加した。
(モリタ先生)「コヤマ、話は聞いたぞ。肩は大丈夫か?」
声をかけてくれたのは、オレの担任兼、赤連合で長縄跳びを指導しているモリタ先生だ。
(コヤマ)「ええ、なんとか…。でも、とうぶん腕は動かせなさそうです。」
(モリタ先生)「そうか…。とりあえずゆっくり休め。もちろん練習は見学でいいから。」

そして練習は急遽代わりの回し手を決め、再開された。
しかし、何回やっても縄が安定せず、思うように前ほど回数が稼げない。
くそ…部活はもう引退していたからよかったとしても、こんな時にオレは…。
モリタ先生に言われるがまま練習を見学していたオレは、ふがいなさで唇をかみしめていた。

その時だった。
(モリタ先生)「コヤマ、お前チームのコーチやってくれないか?」
(コヤマ)「えっ…?」
(モリタ先生)「確かに、そのケガじゃ回し手はもちろん、跳ぶことも難しいだろう。でも、それ以外でもできることはあるとオレは思うんだ。
いまのチームには、やっぱりお前が必要みたいだ。どうだ、やってくれるか?」

コーチか…モリタ先生の言いたいこともわかるが、最上級生とはいえ生徒のオレがそんな偉そうな立場になっていいのだろうか…?
そんなことを考えていると、下級生たちがオレに声をかけてくれた。
(モブ生徒)「コヤマ先輩、オレたちからもお願いします!やっぱり、やるからには勝ちたいんです!」
(コヤマ)「そうか…わかった。じゃあ、やるぞ!」
(長縄跳びメンバー)「オーッ!!」


そして、迎えた体育祭当日。
午前の種目が終わり、全国的に恒例であろう、家族や保護者とのお昼ご飯を食べ、いよいよ午後の紅白対抗戦が始まった。
紅白対抗戦の勝敗は単純で、応援合戦含めた5種目でより多く勝ったほうの勝利である。
今年は長縄跳びが大トリになっているため、オレはそれまで応援に回る。

最初の種目は玉入れ。赤連合が順当に1勝をゲットした。
続けて、2種目めは綱引き。もともとアンカーを務める予定だったオレがいないこともあってか、ここは赤連合が残念ながら負け。
続く応援合戦は、投票の結果赤連合が勝てたが、4種目めの短距離リレーはわずか2秒の差で白連合に負けてしまった。
(モリタ先生)「2対2か。後は任せたぞ、コヤマ。」
(コヤマ)「はい、先生!」

いよいよ大トリ、長縄跳びの番が来た。
ルールは簡単で、両連合2回ずつのチャレンジで、より多く跳んだ記録を出したほうの勝ちだ。
先攻はオレたち、赤連合。
(コヤマ)「よーしみんな、1回目いくぞ!!せーの!」

縄の横から、三角巾で片手を吊ったオレが声を出す。
(長縄跳びメンバー)「いち!に!さん!し!…」
猛特訓のかいあって、縄はかなり安定して回っている。
(長縄跳びメンバー)「じゅう!じゅういち!じゅうに!じゅうさん!…」
そうだ、その調子だ。いいぞ、まずは20回以上を目指してくれ。
(長縄跳びメンバー)「にじゅう!にじゅういち!にじゅうに!にじゅうさん!にじゅうし!にじゅうご!にじゅうろく…あっ!」
(アナウンス)「赤連合、ただ今の記録、25回!」

よしよし、いい感じだ。25回も跳べれば上出来だろう。
続けて、白連合、1回目のチャレンジ。
(相手長縄跳びメンバー)「いち!に!さん!し!…」
(アナウンス)「白連合、ただ今の記録、25回!」

こちらのチームがざわつく。
同数か。なかなかやるな。
練習でも、25回より多く跳べたのは数えるほどしかない。
でも、赤連合の勝利は、この種目にかかっている。やるしかない。
(コヤマ)「みんな、いいか!2回目いくぞ!せーの!…」

(アナウンス)「赤連合、ただ今の記録、27回!」
(長縄跳びメンバー)「やったぞ!最高記録タイだ!」
オレも、左手でガッツポーズした。
あとは、次のチャレンジで白連合がこれ以下なら、赤連合の勝ちだ。

さあ、白連合、2回目のチャレンジ。
(相手長縄跳びメンバー)「いち!に!さん!し!…」
どうだ。26回以下になってくれるか。
(相手長縄跳びメンバー)「じゅう!じゅういち!じゅうに!じゅうさん!…」
まだか。まだ続くか。
(相手長縄跳びメンバー)「にじゅう!にじゅういち!にじゅうに!にじゅうさん!にじゅうし!…」
くそっ。超えられてしまうか…?
(相手長縄跳びメンバー)「にじゅうご!にじゅうろく!にじゅうなな…うわっ!」
(アナウンス)「白連合、ただ今の記録、26回!」

その瞬間、静かに見守っていた赤連合から、一気に歓声が上がった。
(赤連合)「やったぞー!!勝ったー!」
(コヤマ)「うおおー!!」
勝てた。自分で縄を回すことはできなかったけど、やったんだ。
左手を空へ突き上げたオレのところへ、モリタ先生がやってきた。
(モリタ先生)「やったな、コヤマ。お前のおかげだ。ありがとう。」
(コヤマ)「ありがとうございます、先生。オレ、嬉しいです…。」

中学校最後の体育祭、オレはケガで選手としては活躍できなかった。
でも、この年が一番、今でも思い出に残っている…。

サムネイル: bodacofanさんによる写真ACからの写真

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