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一期一会について

何を書くべきか、どう書くべきか悩んでなかなか筆が進まなかったのですが、私の大切な人について書こうと思います。

2019年の2月、私はちょうど2カ月になったばかりの娘を抱いて新宿のレス
トランにいました。生後間もなくまだ首もすわっていない娘を連れて、おそ
らく乳児にとって最適な環境ではない場所に外出することは母としては良く
ない決断だったかもしれません。ただ、どうしても彼女に会いたくて、柔ら
かくふわふわとした娘にしがみつくようにしてレストランに向かったのを覚
えています。

大学時代のルームメイトだった彼女に会うのは10年ぶりでした。3人の子供
たちを両親にあずけて、旦那さんとの日本旅行を楽しんでいる彼女は以前と
変わらず元気そうで、まずはとても安心したのを覚えています。

「とても似ている」「Mongolian spot(蒙古斑)はやっぱりあるの?」と
話す彼女の腕の中で、娘は少し泣いたり、笑ったりしていました。お互い
の家族のことや仕事のことなど、2時間ほど話した後、私はようやく彼女に
「How are you doing?」と聞くことができました。

彼女は少し間を置いた後、「死ぬのは怖くないけれど、夫や子供たちを残していくのがつらい」と言いました。言葉が出なくなってしまった私に娘を渡し、彼女はお手洗いに行きました。しばらくして帰ってきた彼女の目は赤かったけれど、私たちはそれには触れず、また共通の友人や大学時代の思い出などについて話し始めました。

別れ際、彼女に抱きしめられた時、私は思わず彼女にしがみつきました。
「See you」も「Good bye」もどちらも言えませんでした。

それから約1年半後の去年の10月末、彼女は亡くなりました。がんとの闘
病の末、ホスピスで家族に見守られながら旅立ちました。コロナ禍だった
ため、オンラインで行われた葬儀に参列しましたが、お墓参りにも行けて
おらず、まだ彼女が亡くなったという実感が持てずにいます。

ヘルスケアを担当する新しい部署に異動してから約半年が経ちましたが、ことあるごとに彼女のことを考えます。クライアントと無機質なスクリーンを通して向き合う時、「私たちは今一体何のためにここにいるんだろう」とふと、心がシャットダウンしかける時があります。そんな時、彼女のことを考えます。彼女の存在が背中を押してくれているように感じる時もあるし、ただただ整理がつかず頭が真っ白になる時もあります。正直なところ、まだ後者の方が多いですね。いまだに葛藤しながら仕事をすることが多いので、無意識のうちに私はクライアントの先に彼女の姿を探しているのかもしれません。

コロナも少しずつ落ち着きつつあるように感じます。皆さんも大切な人に
会いに行けるのを心待ちにしている頃ではないでしょうか? 私もコロナ
が落ち着いたら、また娘を連れて彼女に会いに行こうと思っています。

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