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社会人1年目の私へ

社会人1年目の私。就職おめでとう。

やっと大好きな仕事をすることができるようになって、毎日が楽しくてしょうがないでしょ?浮かれているし、少し調子に乗っているかもしれない。
そんなあなたに少し未来の話をさせてください。

今後9年間の間に、大好きな仕事はあなたにたくさんの経験をくれます。
良いものも、悪いものも。たくさんの笑顔と、それと同じぐらいの涙も。
そして、結論から言ってしまうと、9年後、あなたはその大好きな仕事を失っています。

大好きな仕事だから、あなたは頑張りました。少し頑張りすぎてしまったかもしれません。どんどん忙しくなっていったけど、それが心地よかったんですね。友達との約束をキャンセルして、家族と過ごす時間を削り、少しだけ感じていた違和感も無視しました。深夜まで残業をして、体をひきずるように家に帰って、ベッドに倒れこむ。休日も仕事のことが頭を離れない、もしくは死んだようにただただ眠る。そんな生活が「充実した社会人っぽい」と思っていたし、かっこいいと思っていました。

ただ不思議なことに、世界はどんどん広がっていったけれど、視界はどんどん狭くなっていきました。

数年後、まず体が悲鳴をあげました。痛みでうずくまることが増えました。病院に行っても、原因不明。「少し休んで」と言われるだけで、具体的な治療方法はありません。どうせ治らないならと、働き続けることを選びました。通院する時間を惜しんで、市販の痛み止めを飲みながら、意識がもうろうとすることもあったけれど、大好きな仕事をし続けました。

そのまた数年後、今度は家族が悲鳴をあげました。
「今の君とは望む未来を共有できない」「変わってしまった」
それでも仕事を選びました。家族を失って一人になっても良いと思いました。それで、大好きな仕事を続けられるなら。

それからまた数年後、その時は突然訪れました。大好きな仕事を続けていた私は、ふと気づいたのです。すっかり自分が嫌な人間になってしまった、と。忙しさを理由に余裕をなくし、優しさを忘れ、心配してくれた人たちに背を向け、一人ぼっちになった自分に、すっかり愛想をつかしました。

大好きな仕事をしていたら、自分のことが大嫌いになってしまったのです。
ここまできて、やっと私は大好きな仕事を辞めようと思いました。

大好きな仕事を辞めることなんて、絶対にできない、と思っていました。
この仕事を辞めたら、自分が自分でなくなってしまう、世界が終わる、生きていけないと、本気で思っていました。今思うと驚いてしまうけれど。

大好きな仕事を辞めた日のことは、正直よく覚えていません。それぐらい、普段と変わらない普通の日でした。何も劇的なことはありません。もちろん、死にもしません。

こうして私は大好きな仕事を失いました。とてもあっけなく。

ここまで話を聞いて、あなたはがっかりしていると思います。大好きな仕事を失う未来に絶望しているかな。そして、大好きな仕事を手放した自分の弱さにうんざりしているだろうな。

そんなあなたに、大好きな仕事を失った今の私の生活を満たしているものを伝えます。

季節の移ろい。なにもしないで過ごす時間。痛みから解放された体。友達との何気ないやりとり。新しく増えた家族。ふっと心が軽くなる感覚。そして、夢中にはなれないけれど、安定をくれる仕事。

どれも、刺激的ではなくつまらないものかもしれませんが、そんな生活を送り始めて、私はまた自分のことを少しずつ好きになってきています。

社会人1年目の私。あなたは大好きな仕事を失ってしまいます。だけど、「頑張りすぎないで」なんて言わないよ。

大好きな仕事を失っても、また幸せになれるよ。そして、派手に転んでも、また立ち上がることができることを、未来の私が保証します。

だから、今は「その時」を走りぬけて。

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