最近の記事

2017/12/30 歌

「どうしようもなく悲しいとき・寂しいとき、歌うのよ」 その言葉を彼女から聞くとは思わなかった。 彼女が歌いながら家事をするのが好きだったのだが。 待てよ、彼女はほぼ1日何かのたびに歌っていた。なんということだ。 それが「悲しいのよ、寂しいのよ」というメッセージだったとは。 次の日、歌い出した彼女に動揺して「大丈夫?」と聞いてみた。 「あなたがどうにかできる悲しさとか寂しさじゃないから気にしないで」 それ以来、彼女の歌声を聴くと、悲しく、寂しい気分になるのだった。

    • 2017/12/25 綺麗な字

      彼は、手が届きそうで、届かない。そんな人だった。 字が上手くなればいいなぁと、思うけれども、そう切実でもない、でも、綺麗な字の人を見ると、「こういう人には一生なれない」と、思わされるような、そんな人だった。 まるでイーストウッドの映画のように予告編だけでお腹がいっぱいになるような。ドラえもんで言えば、出来杉君のような。 だから、社会人になって数年して、イベント関係のお仕事の会場で彼を見つけたときは、まさかお茶できるなんて思わなかったし、しかも、その時に、彼女いるいないの

      • 2017/12/24 張り紙

        「なんでも解決します」 縦に書かれたその下に、携帯電話番号があった。 フミオ45歳は、今、すい臓がん末期を宣告され、緊急入院か自宅療養かの決断が必要だ、と言われたばかりだった。 家に帰りたくない。帰って、妻にこのことを話せば、きっと保険屋さんに色々確認するのが関の山だろう。また兄弟に電話して、持ち家や遺産をどう分けるか、遺書にこれをかけ、あれをかけ、というのが関の山だろう。 偶然見つけたその張り紙の主に解決策などあるはずないのだが、とにかく、今はとてつもなく誰か関係の

        • 2017/12/26 典子の日記

          典子は、今日もノートパソコンを開け、文字を綴った。 iPhoneから書いていたブログの方はとっくの昔に夫に見つかってしまい 「くだらないからやめろ」というごく曖昧な理由でやめてしまった。 当時、典子にとって書くことは息を吸うことそのもの・・・とまではいかないまでも、三度の飯と同じぐらい、大切なことだった。 「書かない時の気持ち悪さを考えたら、どちらかというと、排泄と一緒かもしれないな」 典子は考え、少し笑った。 ブログをやってた頃、その世界では典子は王様だった。夫の

        2017/12/30 歌

          2017/12/23 嘘:反対側

          平気で堂々と嘘がつける人だったんだ。 彼のまっすぐな目を見て、私は無性に悲しくなった。 100歩譲って、彼に悪気はないとしても。 騙されてあげるほど、私が彼に恋してなかったのは幸いだった。 今日私は見てしまった。 彼がわたしの知らない女の子とキスするところを。 しかも、濃厚なやつ。 街で見かけた時、仕事仲間と会ってるんだと思って、あとで声をかけようかと思ってついて行ったら、二人はビルの隙間に入って、キスをしたのだった。 まぁ、とは言っても、私たち、付き合ってる

          2017/12/23 嘘:反対側

          2017/12/22 嘘

          「私のこと好きなんて、嘘でしょ」 彼女がまっすぐに僕を見つめるのが苦手だ。 全部見透かされていると思うからだ。 苦手だけど、僕はもちろん目をそらしたりはしない。 そう、こういう時が一番大事だ。 彼女が瞬きするか、目をそらすまで、自分からそらしてはいけない。 ゆっくりと「なんでそう思うの?」などと低い声で呟いて ふとももに手を置いて、ベットに誘い込めば、 たいていの女の気は済んでしまう。 でも今回は違った。 うまくいかなかった。 彼女は何か決定的な証拠をつ

          2017/12/22 嘘

          2017/12/21 悩み

          ともあき 28歳の悩みは、悩みがないことだった。 バリバリ体育会系の上司(以下バリ上司)には「もったいないやつだなぁ」「ハングリー精神がないんだよお前は」とことあるたびに小突かれた。 根っからの優しい性格で人のサポートに回ることにやりがいを感じていた。 バリ上司も、彼の営業事務としての能力の高さに感心していた。バリ上司は「部下に自分を追い越してもらってこそ本当の良い上司」みたいな理想像があるだけで、彼への小言は愛情みたいなものだった。 毎日食事も美味しかったし、都会に

          2017/12/21 悩み

          2017/12/20 メモ帳

          「このメモ帳を拾った方は、こちらまで連絡お願いします」 と書かれているメモ帳(といっても、B5サイズのスケッチブックみたいなもの)を拾った恵子は今、商店街の中心にある時計の下でメモ帳の主を待っている。 警察に届けて終わろうと思ったのだが、交番に誰もいなかったのと、息子の迎えまで時間の余裕もあったし、メールアドレスに送信したら「助かります!今うけとれますか?」というメッセージに、救世主になったような気分となり、今に至っている。 その人には内緒にしようか迷うところだが、ちょ

          2017/12/20 メモ帳

          2017/12/20 エネルギー[雑感]

          初めまして。ご紹介が遅れました。沖縄で小さな映画会社をやってる宮平と申します。noteで物語を書き始めてはや1週間が経ちました。きっかけは社員のひとりKさんの影響です。 「書けばいいじゃないですか!時間は作るものですよ!」と言われ、図星ではありました。 「(おめーの仕事のカバーしてんじゃぁあ!)」と思わない部分もなかったです(笑)。が、新人君は思ったことにまっすぐでもあり、忙しくても書き続けることをしている人でした。(それが面白いかはこの際、おいといて。) そんなことが

          2017/12/20 エネルギー[雑感]

          2017/12/19 リモコン

          彼女が動かなくなった。 名前はまだつけていなかった。 昨日、会ったばかりだった。 正確には「拾った」ばかりだった。 今は2164年の12月。 21世紀の歴史的建造物としてリニューアルオープンしたショッピングモールにはいくつか問題点があった。 県が民間委託したのはいいが、経営がずさんで広さに対して警備員の数が足りておらず、広すぎて数の少ない警備ロボットと人間では不審者の侵入や「施設への滞在」を防げない。もちろんこれは内部の人間しか知らない。 刑務所の管理ならともか

          2017/12/19 リモコン

          2017/12/18 月曜日

          ブルーマンデイとはよく言ったものだ。 ネクタイを締めながら コウスケは思った。 今日も、上司のオカダが、全体ミーティングでコウスケが先週やっちまったミスに触れ、見せしめのように「同じミスは二度と繰り返さないように!」という、に500円。 御局様のウチダが、新人のミサを昼食に誘うが、やんわりと断わられ、それがまだ「休憩中まで上司と一緒にいてたまるか」というサインだということにウチダは気づかない、に500円。 「悪い人じゃないんだけどな」 ウチダのことを、コウスケも含め

          2017/12/18 月曜日

          2017/12/17 スターウォーズ

          スターウォーズを観に行くべきか、いかざるべきか。それが問題だ。 私は高校1年生、キミ。 暇つぶしに、映画を見て批評を書く映画研究会に所属している。 さっき、スターウォーズが大好きな同じ映画研究会のリョウ先輩が「みんなで観にいこーぜ」、と言い出した。 リョウ先輩、なんでそういうこと、こういう風に言っちゃうのかなー。 やっぱり昨日の私への告白はドッキリなんじゃないか。 何もしなくても人の中心にいるような華やかなこのひととと、雨にも風にも嵐にも負けず日陰でも生きていける

          2017/12/17 スターウォーズ

          2017/12/16 USB

          どうしよう、聞けない。 さわ子26歳は、今目の前の見てしまってはいけなかったらしきモノについて考えていた。 午後17時。会社の制作部がミーティングから戻りプロジェクトの進捗を共有して早い時間の退社に向けて出入りラッシュとなる。 1ヶ月前に入ったこの会社は、映像制作を中心としたクリエイティブなことを業務にしている。クリエイティブなことはよくわからないさわ子だが、事務員として働いている。 入社して2週間ほどで、さわ子は、そこで出会った4つ年上の制作部のタツヤに告白された。

          2017/12/16 USB

          2017/12/15 新聞

          朝の5時過ぎ。 きつい階段を上がってとあるアパートの403号室のドアに新聞を投げ込めば、その日の半分の仕事が済んだ合図、折り返し地点だ。 美咲は、外廊下に面してるキッチンから聞こえてくる下手くそな鼻歌に微笑んで、早足に立ち去る。 この部屋の主は早起きで、だいたいこの時間に起きていることが多い。 何を仕事にしているか知らないが、ある時は、思い出し叫びが聞こえてきたり、ヨッシャー!という気合の入った声も聞こえた。なかなか賑やかな感情の持ち主らしい。 5時を大幅に過ぎていれ

          2017/12/15 新聞

          2017/12/14 ダサいマグカップ

          僕は怒った。 同居を始めた彼女が、僕の荷物にあったダサいマグカップの数々を、「揃ってないから」という理由で、勝手に写真をとって、メルカリやらのフリマソフトで10個100円で売ろうとしていたことがわかったのだ。 そして、悪いことに応募があってOKを出して、後1時間後に取りに来るらしい。 同居を決めた時、彼女からは「理想の部屋」のイメージ写真をたくさん見せられていたし、僕は仕事もできて色んなことをそつなくこなすかっこいい彼女に、生活にまつわる主導権を譲ることに決めていたが、

          2017/12/14 ダサいマグカップ

          2017/12/13 はじまりの日

          とにかく毎日書くという習慣づけのため、1日1話(といっても詩、散文、メモ、おちなし中途半端)となるかもしれない を最低15分書くことにする。ということで、はじまりの日にちなんだものを。 はじまりの日 えり小五の場合 「(なんだよなんだよなんだよ お腹いたい と思ったらなんか血がでてるんですけど やばいやばいやばい 私もう死ぬじゃね?どうしようどうしようどうしようどうしよう)」 えり小五は困っていた。 今日は一日だるかった。 算数の退屈な授業中、「ん?パンツが濡れて

          2017/12/13 はじまりの日