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なにひとつ見えない

SFです。たとえばワームホールがあったら。

(それまでのワームホールは各空間をつなぐ不思議な洞穴だったし一瞬でワープできる未知とのつながりで、その場に足を踏み入れることがひとつの非日常だった。洞窟に潜るようなスリルと恐怖を持っていた。子供たちは洞窟探検に行くように、日々ワームホールに潜り、新たな発見と恐怖を手にした。

ある日ワームホールに圧倒的な恐怖がやってきた。目に見えないその恐怖は同じく目に見えないこのワームホールを急速に進化させた。その恐怖に対抗すべく、情報たちはワームホールの中を猛烈なスピードで行き来して届けた。秘密の場所だったワームホールに大衆が注目し、目に見えない恐怖に対抗するための目に見えない手段として皆の目に映った。

ワームホールは整備され公共の道となった。様々な情報が行き来する。そしてクリーンになった。恐怖に対抗しうる光になった。しかしそこに新たな声が立ち上がる。

『目に見えないだれかが間違ったことを言っている』

この声は美しく光にあふれたワームホールをまた猛烈なスピードで汚染した。ワームホールのうち、情報の行き来が激しい箇所はところどころ錆びつき、負の感情の吹き溜まりとなった。しかし人々はその錆びた場所を隠すようにまた新しくクリーンなワームホールを広げてゆく。ワームホールが波と粒子でできた道であるなら、負の感情もまた目に見えることはない波と粒子だった。勘のいい何人かはこの時点で気がつく。

『ワームホールと感情は全く同じ素材の上に敷かれている。』

そしてその仕組みに嫌気がさし諦めたり、うまく利用してギミックにしたりした。

目に見えないものたち同士は互いに近い場所で生まれ存在する。目に見えないものは目に見えないものによって一番はじめに汚染される。とある恐怖の波/粒子によって一番初めに汚染の兆しが見えたのは私たちの身体的健康でもなく、地球環境でもない。私たちがツールとして使っていた目に見えない波/粒子をベースとしたワームホールの汚染と、私たちの感情という波/粒子の大きな揺れだった。

目に見えるものも、目に見えないものも、すべてのものが振動している。そして今日も互いに共振している。)

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