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【書評】徳川家康の最新研究 伝説化された「天下人」の虚像をはぎ取る

徳川家康は、8歳か9歳の時から19歳までの間、今川家の「人質」として駿府に居住したことになっている。
この「人質」という記載は、家康の譜代家臣であった大久保彦左衛門忠教がまとめた「三河物語」に書かれていることに拠っており、江戸時代中期に成立した松平家の軍記資料「松平記」にも継承されたことで通説をなしてきた。
ところが近年になって、当時の史料や社会環境をもとに、今川時代における家康の立場について大幅な見直しが進められており、その最大のものが、今川家における家康の立場は「人質」ではなかったというものだそうだ。

徳川家康についての本格的な研究は、この十数年で急速に進展をみており、それまでの通説の多くが書き改められるようになっている。
本書では、少年期から将軍任官までの家康の生涯をたどるかたちで、家康の政治動向が紹介されており、近年の研究成果を集約したものを中心に、随所に著者の見解を織り交ぜたものが書かれている。


本書の編著者

黒田基樹著「徳川家康の最新研究 伝説化された「天下人」の虚像をはぎ取る」朝日新聞出版刊
2023年3月13日発行

本書の著者の黒田基樹氏は、1965年東京生まれ。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。1995年駒澤大学大学院博士課程(日本史学)単位取得満期退学。博士(日本史学)。専門は日本中世史。駿河台大学法学部准教授を経て現在、駿河台大学法学部教授。

本書の章構成

本書の章構成は以下のとおり。

第1章 今川家における立場
『三河物語』史観の見直し/岡崎松平家当主の立場/今川家従属の国衆の立場/元服と今川家御一家衆との婚姻/元服後の領国統治/岡崎領への帰還/今川家からの自立

第2章 三河統一と戦国大名化
今川方との抗争開始/将軍からの和睦勧告の行方/信長との同盟強化と家康への改名/「三河一向一揆」の試練/三河の統一へ/「徳川家康」の誕生

第3章 織田信長との関係の在り方
「清須同盟」の真実/足利義昭に従う/広がる家康の政治関係/「信長の意見に従う人」/信長の軍事指揮下に入る/信長の配下大名になる/「織田一門大名」の立場

第4章 三方原合戦の真実
武田信玄との盟約/家康と信玄互いの不信/上杉輝虎(謙信)との同盟/信玄との手切れ/武田軍の侵攻をうける/三方原合戦の実際/信玄氏去による危機脱出

第5章 大岡弥四郎事件と長篠合戦
大岡弥四郎事件とは/武田勝頼の攻勢/武田軍の奥三河侵攻/事件の発覚と対処/事件計画の背景/長篠合戦への展開

第6章 築山殿・信康事件の真相
築山殿・信康事件とは/大岡弥四郎事件への築山殿の関与/築山殿の意図は何か/信康と妻・五徳の不和/信康処罰の決断/信長から了解をえて信康を追放/築山殿・信康の自害

第7章 天正壬午の乱における立場
五ヶ国大名への途/本能寺の変と「伊賀越え」/甲斐侵攻の開始/羽柴秀吉の了解を得る/北条家との対戦/織田家の内紛と北条家との攻守軍事同盟

第8章 羽柴秀吉への従属の経緯
織田政権の内乱/小牧・長久手合戦/石川康輝(数正)の出奔/「天正地震」による危機脱出/秀吉妹・朝日との結婚/秀吉への出仕

第9章 羽柴政権における立場
羽柴家親類大名筆頭の立場/政権政務への関わり/北条家従属実現への取り組み/関東領国への転封とその意味/家康・秀忠の特別な地位/羽柴家当主に最も近い立場になる

第10章 関ヶ原合戦後の「天下人」化
羽柴家執政の立場/関ヶ原合戦による覇権確立/羽柴政権からの自立/家康の将軍任官構想/戦時体制の解消と将軍任官

本書のポイント

単に戦うだけではなく、同盟や和睦・交渉など政治手腕を働かせた戦国武将である家康。
本書を通じて徳川家康の生涯を追うと、今川家御一家衆、織田一門大名、羽柴家親類大名筆頭など時の有力者との婚姻関係によって有利なポジションを維持して生き残ってきた姿が見えてくる。
「家康の研究は、まさに現在進行形で進んでいる」とのこと。
近年の最新研究に触れることができる好書。


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