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【書評】江戸の経済システム

江戸時代は、「信用取引と投機、金銀銭の変動相場、都市の商業資本によるプランテーション農業の経営などが、高度に、しかも広範囲に繰り広げられた」社会であり、一般に考えられている以上に市場経済が発達していた時代だった。
本書では、「江戸時代を通じて培われてきた市場経済と、その枠の中で官民組織が一体となって活動する社会システムが存在していた」ことを、さまざまな経済事象やエピソードを織り混ぜながら、「江戸経済」の全体像を現代の視点から描かれている。

本書の著者

鈴木浩三著「江戸の経済システム」日本経済新聞社刊
1995年7月14日発行

著書の鈴木浩三氏は、1960年東京都出身で、中央大学法学部卒業後、筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業科学専攻修了。博士(経営学)。経済史家。

本書の章構成

本書の章構成は以下のとおり。

第Ⅰ部 江戸時代の経済システム
第1章 江戸経済の常識・非常識
第2章 お茶は銀で販売 ー 金・銀・銭三貨の世界
第3章 江戸のケインズ政策
第4章 貧乏同心は存在しない ー 幕府の行政機構
第5章 世界最大の都市「エド」
第Ⅱ部 江戸経済の軌跡
第1章 幕府を強化した鎖国政策 ー 国内の体制固め
第2章 海運網の発達と抜荷の横行
第3章 大名はなぜ没落したか
第4章 焼け石に水だった享保の改革
第5章 あらたな経済政策へ ー 田沼時代
第6章 幕府体制の延命策 ー 寛政の改革
第7章 保守派最後の巻き返し ー 文化文政から天保改革へ
第8章 完成した官・業の関係
終章 引き継がれた行政指導の伝統 ー 明治維新

本書のポイント

幕藩体制は、「自給自足的な農村支配と年貢収入の上に成り立っていた」ことから「貨幣経済や市場経済の浸透に比例して」ゆらいでいった。
それは、「米に基礎を置く武士の経済システムが貨幣経済に取って代わられていく過程」だった。
「支配階級だったはずの武家階級は、町人が主人公の経済システムに組み込まれ」るようになり、「そのような経済環境のなかで、幕府が経済政策を効果的に行うためには、町年寄を頂点とするとしの自治組織や、業界団体としての問屋株仲間を活用する必要があった。」

第一部では、貨幣制度と為替、公共投資としての天下普請や通貨政策、経済政策を担った町奉行所と与力・同心、町年寄、江戸市街地の形成と火事などの経済システムについて述べている。
第二部では、海運網の発達、江戸幕府の鎖国政策、京保、寛政、天保の改革や田沼時代の経済政策など江戸経済の軌跡を述べている。

「明治以後、我が国は先進諸国の制度や技術を導入しながら急速な「近代化」を達成したといわれるが、その底流には、江戸時代を通じて培われてきた市場経済と、その枠の中で官民組織が一体となって活動する社会システムが存在していた」ことを本書では示している。

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