花を持ってゆこう
やわらかな日差しに揺れる秋桜が
私を見送った
花を持ってゆこう
風の音のある新しい住処
私は何も聞かないけれど
花を持ってゆこう
白いベルが鳴っているんだ
本当はそれだけ聞いた
花を持ってゆこう
私の腕で抱えきれない花を
こぼしながら会いにゆこう

私は追憶する
忙しく過ぎた日々たちは
今だけは歩みをのろくして
私の瞼の裏をただ穏やかに過ぎてゆく

空は飛べないままだったから
木陰を歩いて会いにゆく
いつもと変わらないと思ったけれど
ここに来たのは初めてのようにも思う
déjà vuというよりも
きっとこれはnostalgieなんだろう

花を持ってゆこう
行くべきところにゆこう
会いたい人と会おう
花を持ってゆこう
ある人に見せる花を
ある人から手向けられた花を
花を持ってゆこう
残せなかった言葉も
誰も知らない真も
すべて　まとめて
ゆこう

しばらく雨が降って
快晴はまだ来ない
花は今日も咲いている
花弁が風に揺れる隣で
私は今日も月日を見送る
なるべく遅く、と
風に託け
私は今日も待っている