ゴミステーションの天使

昼間、ウオーキングをしながら、怒涛のように音声入力をした。
30分のウオーキングで、時間が全く気にならないくらい、
集中して長文が入力できた。

さて、ご機嫌で外食から戻って来て、編集、アップをしようと思ったら、
なぜか消えている…。
送信履歴にもない…。
文字数が多すぎて消えたのか、唖然呆然。

数行だけ書いて送った2通目に、「ゴミステーションの天使」と、
ブログネタが書かれていた。
“今夜はこれをあげなさい”ということだと思い、書いてみることにする。

【ゴミステーションの天使】

私がゴミを捨てに行く、ゴミステーションには天使がいた。
その天使は、みんなが乱雑に放っていくゴミを、
いつでも綺麗に整列させて、2段、2列に積み重ねていた。

ゴミステーションは基本、自治になっている。
その天使は、“私にできることはこれぐらいだから”と、
夏の草取り、冬の雪かきを怠らなかった。
暑い日には、収集員さんにアイスをあげるのだと言っていた。

天使は、自分の家の前を整えておくことも忘れなかった。
雪の降る日は1日に何度でも。
明け方から道路の雪かきに精を出した。
植栽は綺麗に刈り込まれ、庭には草一本なかった。

ある日、天使に話しかけられたのだ。
「ちょっとさ、お願いがあるんだけど。
今度、天国に行くことが決まったんだよね。
もうすぐ行かなきゃいけないから、
ゴミステーションの管理をお願いしたいの。」
私は週末に遠方に出かけていて、ゴミを出さないことが多い。

「えーと…、来られない時も多いんですけど、
できる時だけで良いですか?」

「ありがとう。
これで、安心して天国に行けるわ。」

そんな会話をしてからしばらくして、
彼女は天国へと旅立って行った。

それ以来、できる時だけ行って、
指示されたように2列2段にしてくる。
それ以上はみ出していると気持ちが悪いので、
天国にいても落ち着かないから、そうしてくれと頼まれた。

使い捨ての手袋をはめて、あちこち向いているものを整列させる。
持ち上げて並べてみると、
ゴミにもいろんな顔があることが分かった。
臭いの強いもの。
虫が湧いているもの。
汁の垂れているもの。
口が縛られていないもの。
軽いものにはコンビニの空容器が見える。
ずっしり重いものには、幼子や高齢者のオムツが入っている。
綺麗に切り揃えられた板や枝。
ゴミには、それを出す人の、
人生の名刺が張り付いているかのようだった。

時にはルール違反で、名前の書いていないものや、
大きさの違うもの、
不燃物や、小動物の遺体が置かれていたこともあった。

ルール違反のゴミは、
朝早くに草むら側に捨てられる。
網の中にないと、カラスや猫に袋を破られてゴミが散乱する。
家には工作に使った、おあつらえ向きの金網があったので、
区の整備係りの方に了解をとって、
印の棒から棒まで金網を貼らせてもらうことにした。

金網の壁を作って上に棒を渡し、網をかけると
2列2段が綺麗に出来るようになった。
私は彼女のことが好きだったので、
2代目ゴミステーションの天使を指名されて、
ちょっと嬉しかったのだ。

そんな訳で、半年ほど続けていたある日、
近所の知らない人に声をかけられた。
「いつもありがとう。」

びっくりした。
多分ゴミステーションで一緒になったこともない。
今まで、話したこともない人だった。
それからまたしばらくして、
地区の管理の長だという方が、通りがかりにお礼を言って下さった。
「おかげさまで、ありがとう。」

私は、これはきっと天使からのプレゼントなんだなと考えた。
それ以来、ゴミステーションはいつでも綺麗だ。
みんな整列させておいてくれて、
直す必要もないのは有り難い。

先日久しぶりに行ってみたら、
ひしゃげていた網を通す棒が、新しいものに変わり、
麻ひもで仮止めのようにしておいたところが、
結束バンドで美しく立派になっていた。

誰に言われたのでもないのに、
みんなが自治に自主的に協力している。
これが愛の姿なんだろうな。
言葉を介さず、心だけを贈り合う。

誰だか分からないけれど、
感謝の手を合わせておいた。
時々、天使が見ている気がして、
天使の家のベランダに話かける。
おっはよ〜!みんなが協力してくれているよ。

最近は別の家のゴミを引き受けてくるので、
直接清掃工場に持ち込んでいることが多く、
ゴミステーションに足を運ぶ回数が減っている。

けれど、せっかくの天使からの贈り物だ。
関われる限り、関わっていこうと考えている。

今日もおかげ様🙏

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