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Country Roadは夕陽に染まって。

若くて魅力的な彼女が、インスタで報告していた展示会
「柳本浩市展
“アーキヴィスト-柳本さんが残してくれたもの”」を
少し前にsix factoryに観にいった。

驚くべき量のモノと情報。
現代版の汗牛充棟。

私はほぼ同時代を生きてきたはずなのに、
あまりにシンクロするものがない彼のコレクションを
心高まることなく眺めていた。

が、彼の略年の中で「スポーツ・トレイン」という言葉をみつけて
立ち止まった。それは日本で最初のアウトドアショップの名前だ。

店のオーナーは、マガジンハウス(当時は平凡出版)系の雑誌で活躍もし、夕陽評論家としても、黒澤映画に出演した俳優としても有名な油井昌由樹氏である。

スポーツ・トレインは西麻布にあって、上に油井さんの個人事務所があった。「Y.U.I. SUNSET OFFICE」
サンセット・オフィス、格好いいなぁと痺れた。

初めてオフィスにお邪魔したとき、ラブラドール・リトリバーのジョン太が真っ先に迎えに出てきてくれた。犬がいる事務所なんてその頃はまったくなかったので、とても驚いた。が、それがきっかけで私も人生で初めて犬を飼った。

それから何年かが過ぎて、今度はモデルとして私が編集長を務めていた冊子にジョン太と出ていただいたことがあった。あまりの低予算の企画に、朝の湖の岸で「安易だねぇ」と笑われたことが、けっこう今でも恥ずかしかったりする。

油井さんにお目にかかる十年以上前だと思う(記憶はあやふや)、『Motor Cyclist』というバイク雑誌を次の号が出るまでの1か月間、くり返しくり返し読む少年だった私は、その頃流れていた、HONDAのCB50という原付バイクのCMに夢中になっていた。

クラッチを切り、ギアをローに入れ走り出す。外足荷重でバイクを傾けクリッピングポイントでコーナーを抜け、起ち上がりと同時にギアを上げてアクセルを開いていく。そうした一連の動作がアップでひろわれて、もう堪らなかった。

このCMは見知らぬ未来へ向かっていくワクワク感に溢れていて、バイクは自由への希求を体現するものとして描かれていた(と私には感じられた)。

このCMが、油井さんの手になるものであることは、もちろんその頃は知らなかった。CMに流れていた曲は、”Almost heaven, West Virginia〜”で始まるジョン・デンバーの「Country Road」で、この曲はCB50の映像とともに私の頭の中に刷り込まれた。

Country roads, take me home
To the place, I belong
West Virginia, mountain mama
Take me home, country roads

そして、CB50は私にとって、唯一所有した”HONDA”となった。

柳本氏の略歴にあった「スポーツ・トレイン」という言葉は、一瞬にしてこれらのことを私に思い出させた。

柳本浩市展に行くきっかけをつくってくれた彼女が、「カントリー・ロード」を唄っていることを知ったのは、しばらくしてからのことである。

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