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社会起業家を輩出できるのは、どんな世の中か?:10万人のデータからの実証

NPOやソーシャルベンチャーの経営を考える時、やはり外せないのは「社会起業家のリーダーシップ」です(自分のライフワークでもあります)

最近、この「リーダーシップ」について感じるのは、リーダーシップは個人単体では成立しないということです。

言い換えると、リーダーシップは、本人の資質だけでなく周囲の人々や社会との関係で生まれるモノ、と考えるようになりました。

だとすると、社会起業家のリーダーシップを考える時、彼らを取り巻く社会環境にも目を向けるべきでは?と考えられます。

社会起業家の方々と向き合う時、

「社会起業家が発揮するリーダーシップとはどのようなものか?」

だけでなく、

「社会起業家がリーダーシップを発揮できる世の中はどんなものか?」

という点も重要と感じるようになったのです。

この論点、いうまでもなくメッチャ壮大なのですが、これに果敢に挑戦したのが「Sustainability, Transformational Leadership, and Social Entrepreneurship」という論文。

膨大な定量データを基に、各国の社会環境と社会起業家の輩出の関係を実証した研究です。

1. 27ヵ国・10万人の定量調査

本論文で特筆すべきは、調査に用いたデータ量にあります。
「社会起業家を輩出しやすい社会」を明らかにするため、世界27カ国・10万人以上のデータを用いて実証にチャレンジしています。

これらのデ-タについて、本調査では2つの視点から分析します。

①世の中の人々の見方
⇒「社会起業家のリーダーシップを、世の中の人々がどのように見るか」という視点

②行政のルールや方針
⇒「各国の政府等が決めているルールや方針が、社会起業家にどう影響するか」という視点

これら2つが社会起業家の輩出数にどう影響するか。
これを統計的に分析することで、社会起業家を輩出できる世の中を明らかにすることが本調査の主旨です。

2. 社会起業家を後押しする要因は何か?

この調査の結果、大きく3つのことが明らかになりました。

最初の2つは以下の通りです。

①「世の中の人々の見方」の効果
世の中の人々の「価値観・チーム・思いやり」のリーダーシップを認める意識が高い程、社会起業家の輩出数は増える

②「行政のルールや方針」の効果
政府が、社会・環境・経済に "サステナブル" な制度を敷く地域ほど、社会起業家の輩出数は増える

これらについては「確かにそうだね」というもので、目新しい発見はないかもしれません(とはいえ、これを定量的に実証したのはスゴいと思います)

一方、3つめの結果には、目を引く事実が明らかになっています。

③「世の中の人々の見方」と「行政のルールや方針」の関係
「行政のルールや方針」がサステナブルである場合、「世の中の人々の見方」は、社会起業家の輩出数にあまり効果がない

逆に、「行政のルールや方針」がサステナブルでない場合に限って、「世の中の人々の見方」は、社会起業家の輩出数に大きく効果がある

個人的に、この結果は意外でした。

普通に考えると、

・世の中の人々も社会起業家を認め、
・政府もサステナブルな社会制度を作る、

という状況こそ、両者の相乗効果で多くの社会起業家を輩出できそうなものです。

しかし本調査で分かったのは、平たく言うと、

「行政がちゃんとしてない時こそ、世の中の人々の後押しが、社会起業家の輩出に効果的」(逆に、行政がちゃんとしてるなら、人々の後押しは無くて大丈夫!社会起業家は輩出される。)

ということでした。

この結果は、日本に社会起業家を輩出する"エコシステム"を創ろうと考える時、とても参考になるといえます。


3. 日本の社会起業のエコシステムを創る戦略仮説

日本で社会起業家を輩出するエコシステムを創ろうとする時、よくポイントになるのは

「この(エコシステム創りの)取り組みを、誰に向けて発信すると良いか?」

という点です。

世の中に広く向けたプロモーション的な発信をした方が良いか?
もしくは、
行政・政治家に向けたアドボカシー的な発信の方が効果的なのか?

この点について、本調査の結果を踏まえると、以下のような戦略仮説が成り立ちそうです。

現在、日本の行政制度は、各分野でサステナブル度が高いわけではない(それはOECD等の調査結果を見ても分かる通り...)

その状況では、論文結果の通り、「世の中の人々の後押し」が社会起業家の輩出に効果的

そのため、情報発信の第1ステップには、世の中に広くプロモーションすることが重要。行政や政治分野へのアドボカシーは第2ステップとする。

もちろん、社会課題の分野によって状況は異なると思います。その意味で、これもまだ「仮説」の域を出ません。

それでも、エビデンスに基づいて戦略を立て実行することは、これからの取り組みを、継続的に改善していくのにとても重要と感じています。


この点、中間支援や、社会インパクト投資、コレクティブインパクトなど、日本のエコシステム創りに取り組む皆さまのご意見も是非お聞きしたいと思います。

自分自身もまだまだ勉強中の身なので、新しいエビデンスがありましたら是非お教えください!


本日も、ここまでお読みいただきありがとうございますm(_ _)m

#ようやくnoteの使い方に慣れてきた

【参考文献】
Etayankara Muralidharan and Saurav Pathak (2018) Sustainability, Transformational Leadership, and Social Entrepreneurship.  Sustainability, 10, 567
(※写真出所:同上)

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