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【論文レビュー】準備型のキャリア vs. 適応型のキャリア:松本(2015)

キャリアを捉える概念はあまりに多く、それぞれの関連性や相違点が今一つわかりません、少なくとも私には。そのため、それぞれの概念の布置連関を整理しようと試みてくれる本論文のような存在は大変ありがたいものです。ただ、「これが唯一無二の正しい分類だ!」というものは本論文も含めてありませんので、「こういう切り口もあるのだな」というように観点の面白さを味読いただくとよろしいかと思います。本論文では、準備型のキャリアと適応型のキャリアという切り口を提示して、それぞれに既存のキャリア概念を例示して解説されています。

松本雄一. (2015). キャリアデザインと能力形成. 電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン, 8(4), 227-233.

準備型のキャリア・デザイン

準備型のキャリア・デザインは、「来たるべきキャリアの転機に向けて備えることの重要性」(p.231)を示唆するものだと著者はしています。この中でも二つに類別できるとしていて、第一に自己イメージを知るための概念を説明します。具体的には、ホランドの職業選択理論(通称:六角形モデル)とシャインのキャリア・アンカーの二つを挙げ、自分自身の志向性を理解して準備するという側面に触れています。

二つ目は人生の段階を理解するための概念群で、今後の自身の段階を知って準備するという目的のものです。ここでは、レビンソンのライフサイクル全体を通じた発達段階、シャインの職業人生に着目した発達段階、キャリアの段階として訪れるキャリア・プラトー、といったものを位置づけて解説されています。

適応型のキャリア・デザイン

準備型が将来の予見性を前提に置くのに対して、適応型は将来を予見できないという前提に立ったものです。そのうえで、「キャリアの転機に適切に対処する」(p.232)ことが重要であると説明する概念群であると著者はしています。

具体的には、転機への対処を三つのプロセスで提示するブリッジズのトランジション、偶然を活かすクランボルツのプランド・ハプンスタンス、新しい環境へ探索・志向・確立・熟達の学習サイクルで新しい環境への適応を図るトランジション・サイクル・モデル、が解説されています。

キャリア・デザインと能力形成

著者は、準備型と適応型の二つを比較しながら述べたうえで、両者は補完関係にあると最後に述べておられます。どんなに準備しても転機の後に適応できなければ意味がないですし、現在の環境への適応に汲々としていては将来の準備が疎かになりかねません。両者の相違を認識したうえでバランスや統合を考えることが現実的と言えそうです。

両者を統合するうえでヒントとなるのが能力形成であるというのが著者の示唆です。とりわけ、社内外に学びのコミュニティを構築することが大事であるとされていて、ライフキャリアという観点でも、自社や現在に閉じないオープンな学びのために重要な行動と言えそうです。

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