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あらすじで読む『人材開発研究大全』〜第4章:学校から仕事へのトランジション〜

第3章では企業の立場から大学時代の経験が入社後にどのような影響を与えるかを見ましたが、第4章はその逆です。すなわち、教育機関の立場から、学生の経験を見ることでその後の仕事との関係性を見出そうという意図で書かれています。

この章で取り上げられる主要な問いは、大学1・2年生時の「将来の見通し」が、大学時代の過ごし方や学習、その後の企業でのキャリアの躍進にどのように影響しているか、です。この問いに基づいた研究からの知見について三つのポイントで見ていきましょう。

(1)将来の見通しが大学での学びと成長につながる
(2)大学での学びと成長が就職後のキャリアや成長に影響する
(3)就職後の
キャリアの躍進は個人の革新行動である

(1)将来の見通しが大学での学びと成長につながる

大学生の学生時代における成長につながる要因は何か、という問いに基づいた大学生を対象とした研究調査を紹介しています。そこでは、大学入学後早期のうちに将来の見通しを持つことの重要性が指摘され、見通しに基づいて行動に移せるかが重要だと結論づけられています。

重要なことは、大学入学後早期のうちにという部分でしょう。というのも、大学一年生から四年生にかけて変化しにくいことも明らかになったためです。極めて早期の段階において、学生が視野を広げたり学内外の多様な人々と交流できるアクティビティに目を向けられるようなキャリア開発支援が重要と言えるのではないでしょうか。

(2)大学での学びと成長が就職後のキャリアや成長に影響する

大学時代に学びと成長に対して主体的に取り組んだ学生は、学生生活の充実度も高いと本章では指摘されています。さらに実践的含意として、そうした主体性は就職に対しても前向きに取り組んだことが予想されると示唆されています。つまり、大学から企業組織へのトランジションを円滑に行ない、就職後のキャリアや成長にもポジティヴに影響を与えているとされているのです。

就職活動が学生の学びを阻害するという指摘はよくなされます。しかし、就職活動そのものに問題があるとは言えないのではないでしょうか。たしかに一部の企業が学生の大学での学びを否定するかのような暴挙を行なっていることもありますが、そうした企業は社内の従業員に対しても「ブラック企業」のような振る舞いをしているのではないでしょうか。つまり、新卒採用活動全体を否定するだけでは問題の解決にはならないと考えられます。

(3)具体的には就職後の個人の革新行動に影響する

変化の時代において組織の中でキャリアをすすめるためには、個人が主体的に革新行動を行うことが求められます。ここまで見てきたように、大学時代の早期に将来の見通しを持って主体的に行動してきた学生は、就職後、主体的に革新行動を取ることができるというのです。

では、革新行動を行えるようになるために必要な要素は何でしょうか。まず第一に、初期キャリアと言われる入社後三年目までの組織社会化が前提となると指摘されます。組織の一員となるという感覚を持ち、自分の居場所を創ることが重要となるわけです。

第二に、初期キャリア以降における能力向上も革新行動の基盤となります。学生時代に形成される主体的学びの習慣が、変化の激しいビジネス環境における能力向上にも繋がり、多様な能力を向上させることが革新行動に繋がる、ということなのでしょう。

まとめ

こうした三つのポイントを筆者たちが90頁で記している箇所を引用して今回はおしまいにしましょう。

大学1・2年の頃からキャリア意識を高く持つことは、それ自体が組織社会化に直接影響を及ぼし、また自主学習や主体的な学修態度、大学生活充実度を媒介して組織社会化や能力向上、革新行動に影響を及ぼすことが明らかとなった。(90頁)


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