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【論文レビュー】キャリア自律を促す企業は何が違うのか?:藤本(2018)

現在、大企業をはじめとした日本企業では、キャリア自律を浸透しましょー、というメッセージが発せられるようになってきています。しかし、どの程度キャリア自律がすすんでいるかは企業によってマチマチです。本論文ではキャリア自律促進企業がそうでない企業とどのような相違があるのかを明らかにしています。

藤本真. (2018). 「キャリア自律」 はどんな企業で進められるのか- 経営活動・人事労務管理と 「キャリア自律」 の関係. 日本労働研究雑誌, 60(691 特別号), 115-126.

キャリア自律促進企業とは

キャリア自律促進企業とは、労働政策研究・研修機構(JILPT)の2016年の調査に基づき、「社員の自主的なキャリア形成の促進」していると回答した企業であることを条件としています。同調査に回答した531社のうち27.7%にあたる147社がこの条件を満たし、キャリア自律促進企業としています。

異動配置・キャリア施策の違い

では、キャリア自律促進企業では、どのような配置施策やキャリア施策を展開しているのでしょうか。キャリア自律促進企業とそうでない企業との間で、施策の展開の差異が有意かどうかについて示しているものが以下の表です。

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カイ二乗検定で有意な差があるものは上の表で印がついているものです。ざっくり言えば、①マネジャーからの面談やしくみによって従業員本人からキャリアに関して情報収集していること、②社外での能力開発機会を本人に対して情報提供していること、が特徴として言えそうです。

他方で、個々人の意向を反映した配置については有意な差はあるものの、キャリア自律促進企業であっても運用している企業が少ないことがわかります。

企業経営とキャリア自律

キャリア自律を促進する企業は、人事部門が勝手に進めるものではありません。経営からの意向を受けて、あるいは経営と整合しながら進める施策と言えます。では、キャリア自律促進企業ではどのような企業経営をしているのでしょうか。

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まず興味深いのは企業規模には有意な差が出ていないという点です。直観的には、企業の中でポストが多いと、社員本人が企業内部におけるキャリアパスを想定しやすく、キャリア自律の意識から行動へと移しやすいと考えられがちです。しかし、従業員規模では差がなかったということは、ポジションの数が大事ではないということなのでしょう。

次に、有意な差が出ている三つとしては、①高品質志向であること、②事業展開のスピードが速いこと、③意思決定がトップダウンであること、が明らかになっています。個人的に面白いのは③です。意思決定がトップダウンというよりもむしろボトムアップの方が、社員が自律的にキャリア開発を行うとも思えるのですが、そうではないようです。

穿った見方をすると、トップダウンで「キャリア自律しましょう!」とメッセージを発して施策を打つことで、メッセージに対応するかたちで社員側がキャリア自律するというややパラドキシカルな、日本企業っぽい(?)現象が生じているのかもしれません。

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