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『人材開発研究大全』(中原淳編著)を実務目線で読み解く。 (7)採用学

2019年2月22日に梅田で行ったセッションでは採用を扱いました。『人材開発研究大全』の読書会はこれで一区切りです。歯応えのある(ありすぎる?)大著を編まれた中原淳先生には感謝あるばかりです。ありがとうございました。

採用を扱うためには、そもそもなぜ採用というアクションが必要なのか、という議論が必要です。端的にいえば採用か育成かという二つの観点での比較です。そこでセッションの冒頭ではキャペリを引いて解説しました。

簡単に解説します。(1)必要となる期間が長い[短い]ほど内部育成投資の回収はより容易[難解]になるために内製[調達]を選択する合理性が高まります。(2)スキルや職務が階層的に体系化されていれば内製によって段階的に学習・成長を促すことができる可能性が高まりますが、そうでなければ調達が望ましいでしょう。(3)組織文化を維持[変革]するためには内製[調達]が望ましく、(4)需要予測を行う上での不確実性が高くなれば内製のリスクやコストが高まり、調達の合理性が高まります。

現実的にはそれぞれの度合いを判断して採用か育成かを検討することにはなります。しかしながら、こうした観点があることによってあるポジションの人財を育成するか採用するかを検討する上で議論を整理することが可能となるでしょう。

では日本企業における採用では何が留意され、他国とは何が異なるのでしょうか。第1章で服部先生が書かれている内容について、飛躍を承知で要約すると以下のようになります。

外資で採用を担当したり、レポートラインが外国人の場合の「あるある」な悩みは新卒一括採用という日本独自の採用活動の取り扱いです。というのも、上図にある通り、欧米企業(というか日本以外の先進諸国)では採用とは欠員補充が通常であり、そのポジションの求職者がマーケットにいるという状況が一般的です。したがって、充足するためにはそのポジションに求められるスキルや経験を持っている人物を社外から採用することが通常です。

しかしながら日本では転職マーケットがまだ未整備であり、とりわけ若手の優秀層を社外から取るためにはポテンシャル重視で新卒採用を行います。就労経験が基本的にはない学生を、入社する数ヶ月も前に内定を出して採用するわけですから当然配属される部署は未定です。業務が未定なのですから役割期待は曖昧なものとなり、そのため選考の際の基準も曖昧なものとならざるを得ません。こうした曖昧な期待と基準でいわゆる「人物評価」となるために日本企業の各社で同質化されたプロセスと内容での採用活動がなされてきました。

こうした制約条件の中でも、先進的な取り組みをしている企業ももちろんあります。その革新的な採用事例の帰結が三つに大別されます。

(1)一般的な「優秀な人」を見抜くのではなく、採用のプロセスの中で評価の基準を創り込むことで企業が「優秀な人」を創り出すという側面があります。こうして人財像を明確にしていく過程で、(2)優秀な人財に対して採用プロセス時点からメンターをつけ入社後も含めた育成を行う採用と育成とを一体的に捉える動きも出始めました。しかしながら、人財不足が叫ばれる現在においてはこうした革新的な事例を形だけ真似しようとするある種の(3)マネジメント・ファッション状況をも招いていると言えるでしょう。

もっと突っ込んだ考え方や詳しい事例を知りたい方は服部先生の以下の著作を紐解かれることをオススメします。

では優秀な新卒社員は学生時代にどのような経験を積んできた人物なのでしょうか。それを解説するために第3章のモデル図を取り上げました。

結果変数として入社後におけるプロアクティヴ行動を設定し、それに影響を与える変数をパス解析で明らかにされています。当たり前といえば当たり前の内容ではありますが、大学生活が充実していたかどうかがプロアクティヴ行動に優位な影響を与えています。ここで留意が必要なのは、大学の中での生活という意味合いではなく、大学生として過ごした時間における生活の充実度ということです。

大学生活充実度を媒介してプロアクティヴ行動に影響を与えているものとして「参加型授業への参加の影響度」が取り上げられています。つまり、リサーチを自分たちで行なったりプロジェクトベースで進められる授業にいかに取り組んできたかが大学生活における充実度合いに影響を与えているということです。

もう一つの説明変数は「授業外コミュニティの有無」です。これは、サークル、アルバイト、ボランティア、社会活動、起業といった学内に必ずしもとらわれないコミュニティに参画してきたかどうか、ということでしょう。

この中にはインターンシップも含まれると考えるべきでしょう。インターンシップは、日本企業でもここ数年で定着し、その是非はともかくとして必要不可欠な存在となりました。この現実を踏まえれば、いかにして学生にとっても企業にとっても効果があるかに焦点を移すべきではないでしょうか。

第7章では、インターンシップについて、企業と学生の両者にとってのメリットが調査の結果から仮説的に導き出されています。

ここで「インターンシップの内容」として取り上げられている五つの項目は当たり前といえば当たり前です。それぞれネットワーキング行動に優位な影響を与えています。

注目したいのは、プロアクティブ行動に影響を与えている二つの内容でしょう。企業の人事サイドから見れば、端的にいえば、この二つは受動的なものではないために企画側にデザイン力が求められます。しかしながらこの二つをケアしてプロアクティブ行動を学生が得ることを媒介して就職活動自己効力感に繋がります。つまり、インターンシップが就職活動に良い影響を与えると少なくとも学生が感じるようになれば、企業としてインターンシップを通じて学生へのブランドイメージをあげることができるのではないでしょうか。

次に企業側にとってのインターンシップの効果を見てみましょう。

企業魅力は、インターンシップ生が受け入れ先の企業団体に応募したいと思っているかどうかを表す尺度で、仕事のフィット感とは受け入れ先では自分のやりたい仕事ができると思っているかどうかを表します。

インターンシップの内容が、スキル多様性および社会的サポートを押さえられていれば、仕事とのフィット感にポジティヴな影響を与え、それがインターンシップ終了後に入社したいと思える企業魅力にポジティヴな影響を与えることが示されています。

企業にとっても学生にとっても有効な施策としてインターンシップを定着させることは、キャリア意識を涵養するという意味で社会的な意義のあることなのかもしれません。

【あとがき】

採用が人事機能のなかで注目を受ける時期が続いています。インターンシップはもはや新卒採用では必要不可欠なアイテムになっていますし、オン・ボーディングを始めた企業も多いようです。これらは採用と人財育成の動きの一環であり、人に重きを置いたトレンドであるようにも思えます。

これまでの採用活動と入社後の人財育成は、多様な人財像を無視して十把一絡げな対応とも言えました。しかしながらダイバーシティ開発が求められる現代において、採用と人財育成がこのような対応ではまずい。このような採用と育成を一気通貫させることは時代の要請とも言えるのではないでしょうか。


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