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【論文レビュー】縦断研究がもたらすものと課題について:河合・難波・玉井(2022)

ひとの発達的変化を明らかにする研究群に発達研究があります。発達研究において、縦断研究が何をもたらして、依然として残っている課題は何なのか、について著者たちが丁寧に解説をしてくれています。

河合優年, 難波久美子, & 玉井航太. (2022). 縦断研究は発達の解明にどう貢献するのか- 発見的研究のデータリソースとしての活用. Japanese Journal of Developmental Psychology, 33(4).

縦断研究と横断研究

まず横断研究と縦断研究の相違点から確認します。ある時点において同じ年齢の対象者がどのような行動的特徴を持っているか、を明らかにする上では横断研究で十分に対応できますし、縦断研究に劣るということはありません。コスト面でも横断研究の方が有効と言えそうです。

他方で、複数時点の時間的連続性に関わる情報を基にして変化を明らかにするという点が縦断研究のメリエットがあると言えます。これらの点は同じ雑誌に掲載されている以下の論文でも触れられているのでご関心のある方はどうぞ。

機械論 vs. ダイナミック・システムズ・アプローチ

発達心理学においては、時間軸に沿った変化について二つのアプローチがあると指摘されています。機械論的アプローチでは「時間に伴って出現してくる変化は入力と出力の関係が説明する」(214頁)と捉えます。たとえば、動機づけ理論で登場する刺激反応から時間軸による変化を測定するというものです。

他方のダイナミック・システムズ・アプローチでは、「観察される行動は、多くの要素によってつくられており、その要素の相互作用によって創発される」(214頁)というように多様な主体による動的な相互作用を特徴としています。観察対象としての個人は、他者や社会との相互作用において変化するので、分割できない全体の中に存在するという捉え方をされます。

ダイナミック・システムズ・アプローチとしての交差遅延効果モデル

こうしたダイナック・システムズ・アプローチの流れの中に交差遅延効果モデルが位置付けられるということを意識することは重要です。

217頁

上図は、著者たちが行った乳幼児を対象とした発達研究で、生後の月数(図中の四角内の数値)ごとに測定対象となる要素がどのように影響を与え合いながら変化するかを明らかにしています。このように、複数の要因が時間軸の中で相互作用しながら変化することを明らかにできることに縦断研究のメリットがあると言えます。

縦断研究の課題

他方で、課題もあると著者たちは指摘しています。第一に、コストがかかるという点です。上図のような乳幼児を対象とした調査の場合、協力者やその両親との信頼関係の形成にはエネルギーがかかりますし、月数が進むにつれて協力者本人へのインフォームド・コンセントも必要になるなどケアしなければならない要素が少なくありません。

第二に、欠測値の扱いの難しさもあります。対象者が研究と全く関係ない不測の事態でT2時点での調査に参加しなかったのか(完全ランダム欠測)、T1の影響を受けつつ変数とは関係しない理由でT2に不参加だったのか(ランダム欠測)、変数に起因する理由でT2に不参加だったのか(非ランダム欠測)を見極めるのは難しいです。それぞれによってその後の対応が異なることも縦断研究の課題と言えそうです。

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