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【読書メモ】多様性、理論化、主観。:『ウィリアム・ジェイムズのことば』(岸本智典編著)

ウィリアム・ジェイムズの言葉を解説した本書を、ゆっくりと読み返すのは味わい深いです。初読の際にはあまり気にならなかった箇所も興味深く読めたりします。今回は、白黒はっきりつけない、理論化の危険性、主観の相互作用、という3つについて書いてみます。

白黒はっきりつけない

 ジェイムズは、私たち個人個人が生きる現実を複雑で厚みのあるものだと捉えていました。その考えが彼の哲学や心理学の基本にあります。

p.72

これは現実は多様であると言っているわけではあります。しかし、それだけにとどまるのではなくなぜジェイムズがそのようなことを述べたのかという背景に着目することが重要でしょう。

つまり、人は白か黒かをはっきりつけたい傾向があり、その誘惑に打ち勝って中間段階を見極めることが重要である、ということを述べていると著者は解説しています。その結果として、現実の複雑さやダイナミックさを引用箇所で述べられていると捉えると、ジェイムズの言葉の重みがより伝わってくるのではないでしょうか。

理論化の危険性

次の箇所は研究に携わる身として自戒をこめて読みたい箇所です。

 もちろん、理論化や一般化というのは非常に有益なもので、私たちがその恩恵を被っていることは疑い得ないことでしょう。しかしながら、こうした理論化や一般化の持つ絶大な力のために本来複雑な現実や人間のあり方(ジェイムズの「ことば」で言うところの「材料」)を見誤って、正しくない判断をしてしまうことも事実です。

p.76

研究することは、現実の多様で複雑な状況を単純化することを伴います。その際に、これまでの研究知見でわかっていることを整理しながら、抑制的かつ慎重に単純化を図るわけではあるものの、どうしてもこぼれ落ちるものがあります。

理論化のプロセスを経てこぼれ落ちるものがあることに自覚的であれば、過度な一般化は防げます。ただ、理論化することは他者が利用可能になることも意味しており(というかそれが主目的の一つです)、理論化の際に慎重な姿勢を保ち続けることが大事と言えそうです。

主観の相互作用

私たちは目の前に見える「現実」を客観的に捉えていると思いがちです。しかし、社会構成主義の議論を持ち出さずとも、私たちの個々別々の認識のあり方や対象との相互作用によって見えている「現実」は様々です。

 実際私たちの心は複雑で、いっけん単純に思われる知覚(机の上にりんごが見える、雷が鳴っているのが聞こえる)や感覚(耳がかゆい、足が痛い)も、自分が持っている興味関心や先入観、予期、心構えといったもの(こうしたものをジェイムズは「縁暈」などと呼びます。(以下略))に影響されているのです。

p.77-78

ジェイムズは、こうした私たちのものの見え方について、自分自身の多様な主観どうしが影響を与え合うことで外界をダイナミックに認識している、という表現をしているようです。自身の内なる多様性を踏まえ、それらが影響を与え合うことが外界の認識にも影響しているというのはなかなか興味深い捉え方のように感じました。


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