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【論文レビュー】人的資源管理と業績の関係をどのように考えれば良いのか?:竹田(2021)

自戒を込めて申しますと、企業で人事を長らく担当していると、経営からの意向を受けて、人事制度の改定や運用の改善によって業績の向上につながる、という文脈のストーリーを展開することがままあります。状況によって程度の差はありますし、間接的な効果とか他の要因にも拠るといった抑制的な留保を入れながらも、人的資源管理と組織業績とを関連づけて説明しがちです(必ずしも悪いことではないとは思います)。本論文では、戦略的人的資源管理論が人的資源管理と組織業績との関係性をいかに説明できるかについて論じておられます。人事こそ読むべき論文と言えそうです。

竹田次郎. (2021). 戦略的人的資源管理 (SHRM) 論による 「HRM (人的資源管理)-P (業績) リンク」 の説明力を考察する. 評論・社会科学= Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review), 138, 85-104.

人事管理と個人・組織の業績

著者は、人事管理と個人・組織の業績との関係性を明らかにする上で、江夏・穴田(2021)の因果連鎖モデルを参考にしています。というわけで、まず江夏・穴田(2021)のモデルを示すと以下のとおりです。

江夏・穴田(2021) p.24

ここに、組織による計画・管理をもとにして、①PDCAサイクルと、②組織内コミュニケーションの二点を追加して以下のようにモデルの修正を試みています。

竹田(2021) p.98

著者も述べているように企業における現実を意識したモデルの修正であり、現場でのイメージをしやすくなっているモデルと言えそうです。

制度というコミュニケーションパス

このモデルを眺めていると、労使交渉によって従業員から経営へのコミュニケーションが追加されていることがよくわかります。このような従業員→経営への具体的なコミュニケーションと合わせ鏡になるものとしては、モデル内では矢印しか記載されていませんが、人事制度の内容と運用というコミュニケーションパスがあると考えられます。

モデルとして整理されるおかげで、ある施策の射程範囲がどこにあるのかを考えることができます。日常的なマネジメントであれば右半分の世界であり、中長期的な制度の運用・浸透という観点では真ん中の世界になる、といった具合に、特定の施策の位置付けやその影響範囲について考えることが有用と言えるでしょう。

おまけ

本論文でも引用されている江夏・穴田(2021)については、所感を以前書いてみたのでご関心のある方はご笑覧ください。


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