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【読書メモ】「大谷翔平とドジャースの挑戦。」:Sports Graphic Number1094・1095号

今週号のナンバーの表紙を見ていただければ、いつものごとくのジャケ買いだとご理解いただけるかと思います。大谷翔平さんの冒頭の記事も期待以上の素晴らしいものでしたし、花巻東からスタンフォードに進んだ佐々木麟太郎さんと、「松坂世代」の一員としてはいつまでもスター視している松坂大輔さんの記事も読み応えが充分で、印象に残った点を書いてみます。

直感と決断

インタビュアーからの選択に関する問いに対して、大谷さんは直感の重要性と考えることの重要性を以下のように語っています。

「やっぱり時間をかけて考えることじゃないですか。これはフィーリング……つまり直感で決めることとは矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、考えないで決める直感とは似て非なるものだと思っています。常に考え続けるというのは、しっかり情報を増やして、それが正しいのか、正しくないのかという判断を自分の中で常にし続けることです。そうしていれば、大きな決断を迫られたとき、右か左か、どちらがいいのかということを、日々、スモールサンプルがいっぱいある中で決め続けてきた直感の積み重ねのようなものが、最後、『右だ』と、一歩踏み出すための後押しをしてくれるんじゃないかなと思っています」

p.8-10

いや、深いですね。29歳の発言とは思えない。。。日々の熟考と小さな決断の積み重ねによって経験値を積んでおくことで、いざという大きな決断ができるということなのでしょう。感嘆しつつ、はてどこかでこれに近いような発言を聞いたことがあるなと思って探していたら、将棋の羽生善治さんの言葉でした。

 直感力は、それまでにいろいろ経験し、培ってきたことが脳の無意識の領域に詰まっており、それが浮かび上がってくるものだ。まったく偶然に、何もないところからパッと思い浮かぶものではない。

羽生善治『決断力』p.58

出版年から判断すると羽生さんが34-35歳の頃のご発言です。プロフェッショナルの思考の深さと言語化能力には驚くばかりです。一つひとつ熟考して決断するというプロセスを積み重ねることで直感力が醸成され、機会が来た時にすぐに決断ができる、ということなのかもしれません。

ライフキャリアとしての決断

大谷翔平さんの高校の後輩で、スタンフォード大学への進学を表明して話題になったのが佐々木麟太郎さんの記事も興味深いものでした。高校時代のホームラン記録が有名な選手ですが、スタンフォードへの進学を決めた決断もすごいものでした。

「野球選手としては、まだまだ未熟な部分が多い。(中略)野球人生だけで考えたら、いろんな選択肢はあったかもしれませんが、野球とセカンドキャリア、その総合的な人生を考えて、歩む道を選ばなきゃいけないという思いはありました。野球ではさらに上を目指せる。勉強でも自分のやりたいことを見つけて、その分野を伸ばせる。僕にとって両方の環境が一番充実していると思ったのがアメリカの大学であって、最終的に選んだスタンフォード大学が、自分にとって『今、進むべき道』『一番行きたい場所』だと思って決断しました」

p.61

高校三年生でこれだけの長いスパンで総合的な決断ができるという点に驚きます。あれだけ甲子園で騒がれた選手なので、プロ野球の複数球団から声がかかったでしょうし、日本の大学からも話はたくさんあったと思われます。そうした中でスタンフォードに進学するという着想を持てたこと自体がすごいと思いますし、決断できた点にも尊敬します。

苦悩と決断

最後に取り上げるのは松坂大輔さんのインタビュー記事です。最初に取り上げた大谷翔平さんの記事と同様にインタビュアーは石田雄太氏。同氏の文章が好きで書籍も持っているほど、安心して読めるスポーツ・ジャーナリストです。

素晴らしいジャーナリストだからこそ、インタビュイーの言葉を引き出せるのでしょう。松坂さんがWBC連覇および2大会連続でのMVPに選ばれた後のシーズンでの、度重なる故障での苦しさを語っている箇所が印象的です。

 じゃあ、どうすればいいのかと考えたとき、自分のピッチングに2本の道を求めようと思いました。1本は力強いけど繊細さに欠ける、もう1本は綺麗だけど力強さに欠ける……つまり、強いまっすぐで勝負するか、ボールを動かして勝負するか。当時の僕は、最終的にはその2本の道は1本の道になると思っていました。強いまっすぐは理想とは程遠くても綺麗に投げることはできるし、動くボールにも強さは求められると考えたからです。肩を痛めてからの自分が目指すべき道は、どんな入り方をしても、いつかその2本が近づいて1本の道になるはずだと信じていました。

p.99

明るい将来を見据えている大谷翔平さんや佐々木麟太郎さんの記事もよかったですが、苦しい状況での決断という松坂大輔さんの記事も素晴らしいと感じます。松坂さんの記事は長期連載中なので書籍になったら即買いでしょう。


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