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【論文レビュー】組織社会化とキャリア・アダプタビリティ:Cai et al.(2023)

中途入社社員や新卒入社社員が新しく組織にエントリーし、組織になじんでいくことを組織社会化と言います。組織社会化を促すものには、①組織が行う組織社会化戦術と、②個人が行うプロアクティブ行動の二つがあります。本論文では前者の組織社会化戦術が扱われていて、ジョブ・エンべディッドネス(Job Embeddedness)を媒介してキャリア・アダプタビリティに影響する、ことを明らかにしています。

Cai, D., Li, Z., Xu, L., Fan, L., Wen, S., Li, F., ... & Guan, Y. (2023). Sustaining newcomers' career adaptability: The roles of socialization tactics, job embeddedness and career variety. Journal of Occupational and Organizational Psychology, 96(2), 264-286.

組織社会化とキャリア・アダプタビリティ

冒頭で述べた関係性を図示した仮設モデルが以下の通りです。

p.266

こちらを見た方がイメージは持ちやすいと思います。組織社会化戦術による社員の組織社会化の促進という組織による施策が、個人のJob Embeddednessを高めるというのは直感的にも理解できます。興味深いのは、そこからキャリア・アダプタビリティという個人の心理的資源に影響を与えるという点です。

キャリアとは個人のものであり、自律的な意識と行動によるものと捉えられがちです。ニュー・キャリア論と呼ばれるプロティアン・キャリアやバウンダリーレス・キャリアはそうした立脚点に立った概念です。キャリア・アダプタビリティもそうした個人の視点に立ったものであることは同じと言えますが、組織や組織における職務への適応にも関連するというのは大変興味深いと思います。

過去の転職経験の統制効果

冒頭の要約では端折りましたが、本論文ではCareer Varietyによる媒介効果も見ています。Career Varietyは、past transition experienceを測るものなので、ざっくり言えば「過去の転職経験」が多いか少ないかを見ています。

したがって、Career Varietyによる統制効果は、仮説としては、転職経験が多いと、組織社会化戦術がジョブ・エンべディッドネスを媒介してキャリア・アダプタビリティを高めるという影響を弱める、ことを想定していたようです。要は、転職に慣れていれば組織社会化戦術が果たす役割は弱くなり、慣れていなければ高くなる、という仮説なので、納得感は得やすいものでしょう。

ただ、本論文での分析結果によれば、トレーニングについてはこの統制効果が見られなかったとしています(他の二つ「Future Prospects」「Coworker Support」は仮説通りに統制効果あり)。このことは、転職慣れている人であっても、組織によるトレーニングは組織社会化にとって重要な役割を果たしている、と解釈できます。



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