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「夏を快適に過ごせました」(環境測定報告)

現在の家作りに求められる「快適・省エネ」についての技術的ポイントを
工務店側の視点でご紹介。


すっかり肌寒くなっているのに夏の測定のご報告であることが痛恨です。
遅筆というか、一人時間差攻撃というか、時期的にずれずれ。
そうは言っても、ちゃんとした夏の環境を作れていたので、是非紹介しなくては、という使命感で一杯です。(じゃあ、早く報告しろよ俺、という円環構造でございます。)

そんなこんなで、馬鹿に暑かった夏を思い出しながら読んでください。
夏の測定を行ったのはオオトリ建設さんの名古屋市中川区のモデルハウス。
以前「夏の計測開始」でご紹介した物件です。

1Fは壁埋込エアコンで冷房
能力は2.8kw 
実際はもっと小さいエアコンでも対応可能だが、「壁埋込」の最小サイズが2.8kwだったのでそうなりました。

ダイキン壁埋込エアコン

2Fはフリービルトインエアコン
これは小型の天井カセット型ダクト式エアコン。
こちらも最小能力が2.8kwなので、そのサイズで2Fは空調計画。
これをファミクロ内に設置し、2Fの各居室にダクトで冷気を配ります。

ファミクロ内のフリービルトインエアコン
写っているのは吸い込みグリル

モデルハウスなので24h連続運転。
運転モードは冷房で24℃設定。やや寒いがモデルハウスなので、そのように設定。24h換気はダクト式三種で計測中は動かしていた。

で、1Fのリビングと脱衣室、2Fのファミクロと寝室の合計4部屋の温湿度と消費電力を8月上旬から約2週間計測。

以下は計測期間中でもっとも暑かった8月12、13日の計測データ。
13日の外気温は38℃に達している。
是非注目してほしいのは各部屋の室温。
どの部屋も空間軸(部屋間)でみても、時間軸でみてもほとんど温度ムラがない。これは当たり前のようであって、実際はなかなか難しい。
ちゃんとした日射遮蔽計画と空調計画(適正な能力設定、エアコン選定、ダクト計画等)と施工能力が合わさって、このような環境を実現できる。

縦軸 左は消費電力wh
右軸は温度℃

床下エアコン、小屋裏エアコンが賑々しいが、このような熱環境になるかは疑問だ。往々にして、時間軸でも空間軸でも温度ムラができる。
温度ムラを絶対悪とは言わないが、「ある程度の温度ムラを許容するシステムが床下エアコン、小屋裏エアコン」ということを理解し、住まい手に説明する必要がある。説明できないならやめた方がよい。

また、棒グラフはエアコンの消費電力を示しているが、見事に外気温と連動している。外気温が高くなり冷房負荷が大きくなると、エアコンは頑張る。また、室外機側の凝縮器で熱交換するが、外気温が高くなると、同様に熱交換しにくくなるので、エアコン(圧縮機)は頑張る。よって、消費電力が大きくなる。
なので外気温と消費電力が連動するのは「当たり前」なのであるが、何十回と計測をしていると当たり前を当たり前と認識し嚙み締められる幸せを感じるのだ。とてつもない不幸にあった人間が、他愛のない日常を懐かしむ感じだろうか。
消費電力はどうか。1Fのエアコンは安定して200wぐらいの消費電力で2Fはその時々の外気温に応じて上下動している。いずれにしても最大消費電力は8月13日の14時台で合計925whだ。2台の最大消費電力は1750wなので、もっている能力の50%程度しか使っていない。
「俺は全然本気だしてないぜ。」
と言っているティーンエイジャーのようにすかしているぜ。
もっと言うと24℃設定で室温が実際に24℃台なので、寒いっちゃ寒いぐらい。冷房で一般的な26℃設定なら、さらに消費電力が20%以上削減される(COP固定だとする)。
ことほど左様で、現在の高気密高断熱住宅ではエアコン能力はその畳数表示と一致しない。2.8kwのエアコンは一般的には10畳用なので、2台合計20畳用のエアコンしか導入していないが、外気温が38℃という昔と比べたらどうかしている温度でも能力は使い切っていない。
それを確認できる計測だ。
(念のため繰り返すが、計画時にもっと小さいエアコンでよいことはわかっていたが、1,2階のエアコンの種類だと一番小さいエアコンが2.8kwだった)

続いて同じ8月12,13日の絶対湿度を比較。
計測は相対湿度で行うが、比較するには絶対湿度に直した方が、とらえやすい。

縦軸 左は絶対湿度g/kg
右は消費電力wh

先ほどのグラフと違って、外気の絶対湿度と消費電力は連動しない。
これはエアコンが温度をターゲットにした運転をしているからだ。
除湿はあくまで「なりゆき」なのだ。
よって、エアコンが冷房を頑張っている時間帯(消費電力が大きい時間帯)はなりゆきで湿気も取っているが、エアコンが頑張らない時間帯(消費電力が小さい時間帯)は絶対湿度が上がる。
またエアコンの頑張りの大きい2Fの方が絶対湿度は小さい。
絶対湿度g/kgは夏の場合できれば12g/kg以下にしたい。
それで言うと
2Fの絶対湿度はおおよそ12g/kg前後で、よい感じ。
1Fはそれよりやや高く推移しており、もう少し何とかしたい。
「三種換気で潜熱(湿気つうか水蒸気)を回収しないから湿度が高いのだよ!」と言われることがあるが、一種熱交換気を採用し、温湿度計測をしても絶対湿度はこの測定の傾向とあまり変わらない。これは一種熱交換気にしたところで、顕熱も交換するので、ますますエアコンは頑張らなくなり、なりゆき除湿が減るせいだと考える。
(エアコンや除湿器を併用しない換気単体による絶対湿度比較であれば一種熱交換気と三種換気による絶対湿度の差が出るだろうと思う。)
と、言うことで高気密高断熱においては「夏の潜熱(湿気つうか水蒸気)取り切れない」は課題であり、同じ課題をもった工務店さんでは、エアコンの吸い込み口を強制的に半分塞ぐという荒業を行う御仁もいるが、エアコンの冷媒やら圧縮機やら膨張弁やらに不具合を起こしそうなので圧倒的におすすめしない。
「エアコンメーカー推奨の機能で課題解決すべき」という私の信念のもと
お勧めするのが再熱除湿モードをもったエアコンの採用で、例えばダイキンの「ハイブリッド方式」を搭載した壁掛けエアコンはどうかと思う。

ダイキンカタログより抜粋

長くなった。
あまり書かない割に書き出すと止まらん。
最後に計測期間トータルの消費電電力と室温、外気温はこんな感じ

縦軸 左は温度℃
右は消費電力wh

なんだかんだ一日あたりの消費電力は大きかったが、理由は明白。
理由1:今年は馬鹿に暑かった。計測期間の平均外気温は29.9℃。
理由2:平均室温が24.4℃。
で、これをいつもの名古屋の平均外気温で室温26℃に補正。
そんでもって、エアコンのCOPを固定で考えると(←これすごい大事。COPが変わると消費電力がめっちゃ変わる。詳しくは以下を参照されたし。)

8月の冷房にかかる電気代は 約5300円 となる。(32円/kwh)
悪くない。
24時間、室内どこも26℃だと思うと。

そんなこんなです。
このモデルは冬の計測も行うのでその際は是非、すぐに報告いたします。

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