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温度計を評価してみた

現在の家作りに求められる「快適・省エネ」についての技術的ポイントを
工務店側の視点でご紹介。


晩秋の候、皆様におかれましては、ますますご清祥のことと心よりお喜び申し上げます。
寒くなれば、住宅の温湿度を計測したくなるのが人間の性でございます。

そんなこんなで、温湿度計の実力を評価してみた。
なぜそんなことをするのか。
ちゃんとした計測にはちゃんとした温湿度ロガーが必要ですが、それなりに値段がはる。
以前、「あなたが建てた家のパフォーマンスを評価するために環境測定をしよう」とお話した。

測定にあたって大学の研究室やメーカーのラボで使うような測定器しか使えないとなると、なかなか広まらない。
そこで、目をつけたのがswitchbot。

温湿度計測(相対湿度)ができて、ロガー機能もあり、ハブとつなげば遠隔から温湿度の確認も可能。
税込み1980円。
衝撃的に安い。安すぎて不安になる。
これで、環境測定をしてもよいだろうか?
測定値は信頼しうるだろうか?
不安がよぎる。
「スイス高精度センサーを搭載」と謳っている。
露天商のような口上ではないか。
車寅次郎もかくや。

つまり、今回の温湿度計評価はSwitchBotが環境測定に堪えうるか、の評価と言い換えてもよい。

で、今回の出走馬を紹介。

温湿度計(中東おじさんマトリョーシカとアタテュルク友情出演)

左が環境測定の代名詞、T&D製温湿度計測器(画像の機種はCO2測定もできる機種)。
お値段は48000円(11/2現在、amazonの最安値)。

48000円を1980円で割り返すという根性の悪いことを紙上で試みる俺。
何と、SwitchBot24個買ってお釣りがくる。
※CO2計測が不要ならもっと安い機種はある。

一つの計測現場で、少なくとも5個の温湿度計を設置しているので、単価は環境測定を身近なものにできるかどうかの大きな観点なのだ。

T&Dは高い。でもその分、性能が良いに違いない、という資本主義の論理に毒された思考。
実際のところ、露天商に
「T&D買おうかと迷ってるの?SwitchBotにしなよ!
スイス製センサーだよ?
よし、分かった!今日だけ!SwitchBot24個つけてあげるから!」
と、言われたらWwitchBotを買うだろうか?
普通買わないだろう。24個って。2ダース。
それぐらい機能がほぼ一緒なのに価格差がある。
もしかしたら、T&DはSwitchBot24個分性能がよいのかもしれない。
高くてお気楽に買えないT&Dと、安すぎて不安になるSwitchBot。

で、画像真ん中が渦中のSwitchBot。
そして、右がインテグラル製スマートワトソン君。

この名前、もちろんインテグラル製のソフト『ホームズ君』に対応したネーミング。ホームズのよき相棒なのであろう。
コナンドイルのワトソン君はちょっとおとぼけなところがあったと記憶しているが、こちらのワトソン君はスマートなのだ。
とぼけていない、ちゃんと測定する。

いやらしいが温湿度計のお値段は25000円。
※ただし、受信機(45000円)が必ず必要。
今まで、かなりの数の現場でこのワトソン君を使って計測をしてきた。
資本主義的思考でいけば、25000円はSwitchBot12個分の性能なのである。

以上3種類による計測を実施。
T&Dは1個
SwitchBotは2個
ワトソン君は3個
合計6個での評価。
計測は自宅で行い、10月29日~10月31日までの期間をグラフ化した。
この期間は気候が安定していたので、わざと暖房運転を行ったり、室温が高くなった直後に窓開けを行い室温を下げるなどした。
日射熱や暖房の暖気が直接当たらないように配慮し、各計測器はほぼ同一の温湿度状況となるように狭いエリアで計測した。(画像)

測定状況(ワトソン君の数が多いが、途中で2台データが来なくなった。
ワトソン君の欠点はこれ。)

さて、確認したかったことは以下だ。

①(全個横断的に観測して)計測値にバラツキがないか。
②同じ機種同士のバラツキがないか。
③温度変化に対して、同様の計測変化をするか。

で、以下の分布図が計測結果。

種類別で色分けしている。
青 = T&D
赤 = ワトソン君
緑 = SwitchBot
横軸が時間、縦軸が温度(19℃~25℃)

確認したかった事の②、③についてはとても良好だったと考える。
つまり、同じ機種同士の計測の値のバラつきは0.3程度だった。
また、温度変化に対して、同じような計測値変化を示していた。
つまり、同じ計測機種による測定であれば、温度差±0.3℃程度のバラつきで部屋間温度差を計測できる。また、室温変化に対して、同じような計測変化傾向を示す。

で、解釈が必要なのは①。
機種横断的にみたとき、計測値にバラツキがあるか。
これについては青=T&Dが「孤高の存在」になってしまった。

前述の通り、私は資本主義的毒々思考に染まっている。また、T&Dの計測器は環境測定の代名詞なので「偉い人が使っていて、こんなに高い計測器が一番信頼できる値」だろうと思っていた。なのに、孤高の存在となった。

室温が民主主義で決まるなら、T&Dはサイレントマイノリティで、他の5個が圧倒的多数派として、既成事実化するのだ。
それはオルテガ的『大衆の反逆』と言おうか、衆愚政治なのかもしれない。
室温は神のように絶対的であって、相対的ではないのだ!

いや、T&Dが絶対的存在としての温度を正しく映す鏡であると
何故言えるのか!
むしろ、他の5個の方が正しいのかもしれない!

・・ほら、面倒くさい。
なので、計測結果をみてはたと困ってしまったのだ。

で、私の結論は「ま、いいか。」だ。

左・縦軸が温度 右・縦軸がT&D値から最小値を引いた値(℃)

このグラフは6個の平均値、T&Dの計測値、そして、「T&Dの値ーその他5個のうちの最小値」をあらわしている。
これから読み取れるのは、急激な温度上昇の際は「T&Dー最小値」は2.0℃近くになったが、計測期間の平均は0.9℃ということだ。
つまり、小さめに計測する傾向のある個体だったとしても、温度という絶対的真理に一番近い存在である(と、仮定する)T&Dとのずれは1℃ない。
しかし、同じ機種間であれば、その差は0.3℃程度であり、温度変化にちゃんと反応する。
それならばSwitchBotでも「どのような室温環境になっているか」を知るという当初の目的に最大1℃の誤差という精度で叶う、と考える。

そして、1980円というお手頃価格で何台も購入し、計測し、CSVではきだして、分析する。この営みがとても簡単にできるようになる。

かつて、マッキントッシュが登場してコンピュータが民衆のもの(つまりパソコン化)となったように、SwtichBotによって、環境測定が、一部のラボから普通に民衆による計測可能なものになる端緒になるだろうと思う。

と、いうことで、SwitchBotによる計測を私自身が推進します。
また、この冬の測定から実際に導入しようと思います。

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