花参り /詩

花参り /詩

美鳥宝/遠い水
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(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ)
(内容はどちらも同じです)


花参り

 東の空が薄墨の色だ
 ごごんごごんと雲は流れ
 もうじき青くなるだろう
 水底みたいになるだろう

 真白い骨がうずまっている
 ガラスの棒をからから回す
 薄ら甘い飲み物を
 かぶとむしにあげるみたいに
 泣き出したあすの夕方のために

 あらぬ
 ほうを
 見ているね

 風をはらんだブラウスが
 くらげのようにふくらんで
 川べりの石がとても
 熱い
 瞳のおもての薄膜を灼いて
 唇を舐めたすぐから乾く
 あせだくの腕を滑らせて
 わらう

 きらきらきらきらきらきらしている
 みずすましの輪がゆがんでく
 わたしたち
 なにも
 変わらない
 同じものからできている
 粉々になった砂のかけらが
 丁寧に息を吸っている
 かたちてばなしたものたちが
 あなたの産毛を揺らすだろう

 花々に
 首まで浸かる
 まぼろしの舟を流しにゆくよ

 まるで人間のような手つきで
 肩甲骨のあいだを辿り
 不細工な産まれ方をした
 なだらかな血肉はここに

 いとしごの髪をかき回す
 この風がやがて背骨を削る
 お参りにゆく
 何度でもゆく
 あかるい時間に逢いにゆく
 もしもやり方を違えたら
 その時はどうか笑ってやって




(書いた日:20140617)
(朗読した日:20240420)

(YouTube:
2023年くらいの朗読
https://www.youtube.com/watch?v=VFgn_vR4qMw