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しばりぐせ

 えー、だれしも癖というものはあるものでして。

「やだー、あーちゃんまたやってる!!」
「まだやってんの?!」

 実に十五年ぶりに会った中学校の同級生たちと、楽しい飲み会をしている私。あきれ顔の同級生たちの顔がこう、目に染みると言いますか。

「だってぐしゃってまとめるよりも小さくなるじゃん!」

 仲良したちが見つめるものは…しばりだま。

 説明しよう!
 しばりだまとは、箸袋だったりおしぼりの袋だったりを、ぎゅっと結んだものの事である!!

 なんていうかさあ、手持無沙汰っていうかさ、ついつい空いてる手で何か作業をしたくなるっていうかさあ。ついつい、手もとにあるものを片っ端からむすんでしまうのですよ。がっちり縛り上げてしまうのですよ。

「この子昔からそうなんだって、牛乳の蓋のビニールもさ、きっちり畳んで細長くしてむすんでて!!」
「そう言えば…遠足の時もお菓子の袋畳んで縛ってた!!!」
「なんかこう、くせみたいなもんなんだってば。もう今更直せない、見逃してね、てへー。」

 私は自分のおしぼりの袋と箸袋のみならず、結花ちゃんと夏南ちゃんの箸袋におしぼりの袋、さらにはテーブルの水滴を拭いた紙ナプキンなどもすべてきっちり縛り上げてですね。

「あ、葉山さーん!いいさこのボトル入れるわ!よろよろ!!」
「はーい、あんま飲みすぎちゃだめだよ!もう!!うちはうれしいけど!!」

「わーい!お酒きたー!ねえねえ、チーズボール頼もうよ、あとホッケも!」
「あたしレッドアイ飲もう、スミマセーン!」
「あ、ゆきちゃん来た!こっち、こっち!」
「さおりさん来るって!」

 久しぶりの飲み会は、大盛り上がりのうちにお開きとなりましてですね。


「ちょっと!!!!お母さん、さっきまで葉山さんの店にいたでしょう!!!」

 ご機嫌で自宅まで歩いて帰り、玄関で靴を脱いでいたら、でかい人が現れた!…なんだ旦那か。
 むう、今日は町内会の集まりが有るから遅くなるという話だったはず、なぜここにいる!

「え、ちょっと何言ってんだかわかんないんですけど。」
「葉山さんに来年度の会長頼みに言ったら…しばりだまが大量にあったからさあ!口止めしてもダメだよ!バレバレなんだからね?!」

 くそぅ、あの店は片付けが少々遅いのがネックなんだよ、客が出たら直ぐに後片付けすればこんなことには!

 …まあ、片付けが間に合わないくらい忙しいんだな、昨今の飲食店の大打撃を思えばこれくらい目を瞑って差し上げねばなるまい、ウマイ芋焼酎もご馳走になったし…。

 私は旦那の顔を見ることなく、スマートに逃げようと。

「ほら!!!顔赤いじゃん!!飲んだな!!禁酒するって言ってたのに!!!」
「いや、ちょっと何言ってんだか全然分かんないです、お風呂入ろ。」

 私はそそくさとキッチンに向かい、禁酒と書いて貼った紙を丁寧にはがすと、パタパタと細長く折り畳んでですね。

「ああー!!またしばりだま作ってる!!!おとうさーん!!!」
「はがしてたたんでむすんだ…。」

 おぅふ。

 さりげなく不要なものを撤去したら、ちょうどデザートのジャンボプリンを取りに来た姉弟に目ざとく発見されて!

「あ、美味しそうなプリンですね、私が魂込めて作りましたのことよ、ウフフ(*´-`)」

「よっている…。」
「あーもー!結局1ヶ月持たなかったじゃん!あと3日でお父さんの勝ちだったのに!」
「やった~、あたしの勝ち!年末はそばじゃなくてチキンね!あとスーパー銭湯はどこそこのあれで、デザートはー!」

 なにやら騒がしい親子を横目にですね。

 私は縛り上げた紙をゴミ箱に放り投げて…お風呂に向かったというお話です……。


わりと縛ったり畳んだりする人、多いよね…。


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