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押されている

 このところ、スケジュールが、押している。

 毎日毎日、何かしら時間が足りなくなって…次の日に持ち越されてしまうのだ。

 月曜は時間が足りなくなってチラシデザインの仕事が完成しなかった。
 火曜は時間が足りなくなってエコバッグが目標枚数縫えなかった。
 水曜は時間が足りなくなって全身ストレッチをやる暇が無かった。
 木曜は時間が足りなくなって晩御飯がカップめんになった。
 金曜は時間が足りなくなって猫タワーの大掃除が出来なかった。
 土曜は時間が足りなくなって美容院に行くチャンスが消えた。
 日曜は時間が足りなくなって楽しみにしていたスキー場にいけなくなった。

 時間が足りないからと言って色んな事を諦めているのだが、それでもなお時間が足りない。

 私は毎日8:00~17:30まで、実家に通っている。
 老いた両親が二人暮らしをしているので、雨の日も風の日も熱が出た日も骨を折った日も365日欠かさず実家に向かう。

 食事の準備に買い物、家事の全てに通院の送迎…ぼんやりしていると、予定がすべてこなせず、残業する羽目になってしまう。
 いかに効率よくスケジュールを組み、全ての要求に応えていくか…そこに私の手腕が問われる毎日なのだ。

 毎日きっちりやることを明確化し、完璧なスケジュールを組んでこなしていたのだが、先週確定申告で6時間拘束されてからおかしなことになった。

 一応前倒しで朝5時に実家に行き、9時までに親の我侭をすべて聞いてから税務署に行った。

 時間がかかるに違いないから、前もってできる事をすべて終えてから、巨大な敵【かくていしんこく】に立ち向かおうと、してはみたのだ。
 しかし、努力もむなしく結局3時までかかったその日から…、どうにもこうにもスケジュールが完了しなくなってしまった。

 出来なかったことを次の日に持ち越すと、次の日にしようと思っていたことができなくなってしまう。
 完成出来なかったことを次の日に持ち越すと、前日に中途半端なところまで手掛けたせいか効率が悪くなってしまう。

 本来であれば2,3時間で終わる作業なのに、日を跨ぐことで余計に時間がかかってしまうケースが、多々、ある。

 もともと私は、一つの作業を途中で手を止めて持ち越すというのが、苦手だ。やると決めたら一気に終わりまで持って行きたい、せっかちで慌て者で慎重さに欠けるタイプの人間だ。
 あと1時間あれば終わるのに…と後ろ髪を引かれながら作業終了した次の日は、なかなかテンションが上がってこない。
 本来であれば1,2時間で終了するような作業が、2日かかってしまうとトータルで3時間を超えてしまう事もあるのだ。

 …この、残念な癖が…6時間という足りない時間を埋めさせてくれないのである。

 月曜、チラシデザインがフィニッシュできなかったのは、日曜に親の布団丸洗いに追われて服の入れ替えが出来ず、月曜に持ち越されたためだ。服の入れ替えを月曜に行い、そのあとチラシデザインをしたけれどタイムリミットである17:30までには完成させることが出来なかった。

 火曜、チラシデザインに取り掛かったが、勢いに乗っていた感覚が薄れてしまってテンションが上がらずいまいち納得できないまま納品することになり、落ち込んだ状態でエコバッグを作り始めたものの、これまた勢いに乗れず一枚しか作れなかった。

 水曜、ミシンを動かして何とかエコバッグを八枚完成させたが、細かい作業をぶっ続けでやったので体中が凝ってしまった。通常であればこういう場合張り詰めた筋肉を労わるべく丁寧にストレッチをするのだが、時間が無いのでノー手当てで家に帰って家事をした結果疲労感がめちゃめちゃ残ってしまった。

 木曜、朝起きると首が回らなくなっていて無理をしたくなかったが実家の親の病院の送迎が三つもあってどうにもならなかった。疲労困憊で買い物に行く気力が無くなり、手ぶらで家に帰って買い置きのカップめんを食べることになってしまった。

 金曜、スーパーとドラッグストアとホームセンターと電気屋に行って必要なものを買いこんでいたら時間がかかってしまい、汚れっぱなしの猫タワーの掃除が出来なかった。猫達の機嫌が悪くて夜中にストレスげーをやられて、ますます汚れてカオスになった。

 土曜、実家に顔を出してから許可をもらって家に一旦帰り、猫タワーを掃除し、家中雑巾で拭いていたら親から呼び出しがかかった。機嫌の悪い親の愚痴を2時間聞かされて、美容院に行くことができなくなった。

 日曜、美容院に行くのは来週にしようと決めて前々から行くと伝えてあったスキー場に向かう準備をしていたら実家から電話がかかってきて、調子が悪いから病院に連れて行けといわれてすべておじゃんになった。

 6時間、たった6時間のロスが、私をこうも追い詰めることになろうとは。
 6時間、たった6時間が押したことで、こうも自分の計画が狂っていこうとは。

 毎日毎日、何かしら時間が足りなくなる。
 毎日毎日、何かしらやると決めてやれない何かが発生する。
 毎日毎日、何かしらやることをあきらめている。
 毎日毎日、何かしら次の日にやらなければいけないことが出てくる。

 親は自分ではないから、融通を利かせてはくれない。
 私の時間が足りなくなったとしても、きっちりやって欲しいことはやってもらえると信じているし、やらせるのだ。

 自分は親のために、融通を利かせなければならない。
 私の時間が足りなくなったとしても、きっちりやって欲しいと言われたことはやらなければいけないのだ。

 時間が押して困るのは、時間が足りない私一人だけだ。

 たとえば、買い物。
 たとえば、掃除。
 たとえば、仕事。
 たとえば、運動。
 たとえば、娯楽。
 たとえば、勉強。

 やりたいことがやれずに一日が終わる。

 毎日、きっちり6時間分押している。
 きっちりスケジューリングされた毎日に、無理やりめり込んできやがった確定申告の6時間。
 あの6時間のせいで、毎日すっきりしない。

 土地の売買があったので、ネット申告できなかったのが痛かった。
 自分の確定申告はサクッと終わったのに、親の分で6時間も拘束されてしまった。

 だがしかし、放っておく訳にも行かないので、どっちにしろ私がやらなければいけないのだ。
 どこかで時間調整が出来そうなものだが、そういう時に限って親の調子が悪くなり、なかなか6時間の溝が埋まっていかない。

 …一体、いつになったらこの6時間の押しはなくなるのだろうか。

 来年の確定申告は父親と自分の分だけでいいので、わざわざ税務署に行かなくてもいいはずだ。
 来年は今年かかった6時間は必要とされない、つまり6時間という腹立たしいプッシュ要因は消え去り、誤差が埋まるはずだ。

 来年は6時間分が浮くから、6時間分余裕が生まれるはずなのだ。

 今は苦しい時期が続いているけれど、来年になったら空いた時間に手もみに行ったりカラオケに行ったりお菓子作りしたり愉快な動画作ったり自己満足なコスプレしたりひたすらにぞうきん縫ったり山に登ったり宇宙と交信したり未来をのぞきに行ったり過去を改竄したり世界を構築したりするヒマができるはずなんだよ!!!

 ………来年の確定申告のその日まで、ずっと押され続けてしまうのではあるまいな。

 恐ろしい予感を胸に…、今日も、私は、押され続けている。


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