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ヘタレ病み桃太郎が気の毒すぎて涙出る(。>Д<)

 むかし、むかし、とある所におじいさんとおばあさんが住んでいました。

 よく晴れたある日、いつものように、おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。

 おばあさんが川で洗濯をしていると、大きな桃が流れてきたではありませんか!!! おばあさんは甘いものが大好きだったので、大喜びでそれを拾って背中に担いで家に帰りました。

 おじいさんが芝刈りから帰ってきたので、おばあさんは事の次第を説明して、大きな桃を切ろうとしました。

 すると、桃のてっぺんに包丁を入れた瞬間、果汁をまき散らしながら小さな男の子が申し訳なさそうに出てきたのです!!

 おおよそ体長15センチ、えらく小さい人間だと思って見ていると、子供は汁まみれのままぐんぐん大きくなり、胡坐をかいているおじいさんと目が合うくらいの視線の高さ、五歳児くらいの大きさになりました。

 子供を持てなかったおじいさんとおばあさんは、たいそう驚きつつもこれは神様のお恵みに違いないと思い、大切に育てようと……!!!

「ヒイイいいい!!!すみませんすみません、いきなり桃の中から出てきちゃってごめんなさいイイイイイ!!!ホントキモいですよね、素っ裸で入ってて!!全身甘ったるくて申し訳ございません!しかも真ん中の一番うまい所に生の尻を!!!体温で温まってぬるくなった桃果実!!こんなん食べられないですよね、アアア!!せっかくの天界の桃なのに僕のせい、僕のせいでえええええ!!!もったいない、もったいなさすぎるぅううう!!アアア!!踏んじゃった、もう食べられない!!せっかくの長寿の実、実がああアアアア!!何やってんの僕、こんなんじゃ前と一緒じゃん!!!だからヤダって言ったんだ、空気吸ってごめんなさい、いっちょ前に二酸化炭素吐き出してホントすみませんでした!!今すぐ天界に連れてって、生きててマジごめんなさい!!てゆっか勘弁してえええええ!」

 二人は小さな子供が達者な物言いでとてつもない自分下げ発言をするので驚いたけれども、とりあえず喜び、桃太郎と名付けて育てていくことにしました。


 桃太郎はあっと言う間に大きくなり、ドン引きするくらい自己肯定感のない男の子になりました。どうやら生まれる前にかなり相当ひどい目に遭ってしまい、魂が傷ついてしまった影響らしい!!!

「……僕ってホント無駄飯ぐらいのどうしようもない奴ですよね、おじいさんもおばあさんも自分の仕事をきちんとして生きているのに、魚一匹捕まえられないしキノコを取れば毒だし転んで捻挫するしホント疫病神でごめんなさい、マジ桃に入って拾われて申し訳ない、海まで出てジンベイザメにでもぱくーされたらよかったんだよ、アアア、早まって転生したばっかりにこんなご迷惑、ご迷惑をおおおおお!!!もうさ、ドリアンの中に仕込んでくれたらよかったんだよ、そしたら誰も拾わないし?あんなトゲトゲの実なんか、臭すぎる兵器なんか誰も拾わないじゃんね?なんでうまそうな桃なんか選んだんだ、食い意地張った人が拾うに決まってんじゃんって違うの、おばあさんの事言ってるんじゃないの、おばあさんはね、僕を育ててくれた命の恩人、一生媚び諂いますアアア!!!今日のご飯は雑草食みますからええ、自主的にはい、違います違います、おじいさんの刈ってきた芝は食べませんとも!!!そこら辺のエノコログサ齧ります、アアア、緑減らしてすみませえええええええええんんご、ごめんなさいいイイイイイ!!!」

 来る日も来る日も病み武勇伝を聞かされて、正直おじいさんもおばあさんもげっそりしていたのですが、いい大人なのであまり深くいじらずに軽くスルーしておいてあげました。おじいさんもおばあさんも、どうにか明るい子に育ってほしいと願い教育したものの、桃太郎のひん曲がった根性を矯正することはできませんでした。

 そんなある日、桃太郎は二人に言いました。

「鬼ケ島に悪い鬼が住んでいると…聞きました、村中の人が僕に行かせようって画策してるんですよね?聞こえましたよ、悪口ってのはホントどうあがいても耳に入ってくるもんなんです、あれってどういう仕組みなんでしょうね?なんで悪口言ってる人の近くを通りかかっちゃうんでしょうか、神様ってのはどうしてこうもいやらしい偶然を押し付けるんでしょうか、ホント性格悪いですよね、アアアちがいます、おばあさんの信じている崇高なカミサマではなくて、一般的な、そうですね、おじいさんはバッカスの恩恵を信じてるんですもんね、お酒がおいしく飲めるのは良い事ですよ、無理やり飲ませるクソ上司とか酔わせてエロい展開に持って行こうとするクソババアがいないだけでもこの世界はパラダイスですよ、アアア!!そんなこと言ってる場合じゃなかった、ともかくですね、無理やり鬼ヶ島に簀巻きにされて放り込まれるぐらいなら潔く散ってこようと思うんです、だって村人の皆さんの手を煩わせるなんてクソニートの風上にも置けないでしょ?!行きますから、どうぞ、どうぞ許してくださいいイイイイイ!!!」

 相変わらず意味不明なワードを無遠慮に投げつけて土下座をする桃太郎を見て、おじいさんもおばあさんもあきれ果ててしまいました。

 誰もそんなことは言っていない、お前はおとなしくここで暮らしてわしらの面倒を見ておくれと頼んだのですが、病み街道をおかしな方向に突っ走っている桃太郎は聞く耳を持ちませんでした。

「あ、明日出ます、決めたんです!!だから今までの恩を返したと思って下さい!!解ってます、多大なる恩に見合わないとは知っています、でもね、これ以上ここにいたら僕はもっとお二人に迷惑をかけてしまうんです、延々と人様の世話になり続けるなど言語道断、ひい!!足りませんよね?!知ってます、足るはずがない!!能無しの無駄飯ぐらいが図々しいことこの上ないぃイイい!!!でもね、これ以上ここにいると脛齧るどころかそのうちおじいさんとおばあさんの骨まで煮出して出汁とってしゃぶっちゃう展開しか見えないんです、だから今すぐ出ていくぅううう!同じようなこと何回も言ってうっとおしいなって思ってるでしょ?!わかります、ウザくてすみません、話長すぎて申し訳ないです、でもねそれも明日までになるんですよ、だからお願い、許して、許して…!!!アアア、でも心の準備だけさせて?!明日のあさイチで出ていきます、お二人はゆっくりお休みになっててください、ひっそり出ていきますから!!」

 もうこれは下手な事を言う方がヤバいと思ったおじいさんは、若いころ着ていた鎧と家宝の刀を持たせる決心をしました。

 どうしてこんな事になっちまったんだと思ったおばあさんは、日本一のきび団子を作って持たせることにしました。

 早朝四時、ご高齢の二人の朝は早いので、桃太郎が起床する前に準備万端で立ち向かいました。

 豪華な戦セットときびだんごを差し出された桃太郎は、受け取らざるを得ませんでした。気を使ってくれている二人に対してとても否定することなどできなかったのです。持って生まれたヘタレ根性がさんさんと輝いていました。

「は、はひっ?!こここここここんな大層なものを頂いては!!はへっ?!あげたわけではない?!ですよね、こんな立派な物、人間失格者である僕なんかがもらえるはずないですもんね、触ったら腐っちゃいますもんねって持たせたらダメ!!!!ひー!!持って帰って来いちょな?!なんですもしかして鬼ヶ島に行って鬼をやっつけて帰ってこないといけないってこと?!無理やんそんなの、でも真っ直ぐ僕を信じて見つめる目、目、目、目!!!カカカカ帰って来いと?!うーんマジですか帰っていいの?!帰る場所があるって?!こんな僕でもいいの?!アアア!!ありがと、ありがとー!!!」

 おじいさんは必ず鎧を返しに来いと念を押すではありませんか、いい人過ぎる桃太郎は断ることなど到底できない、持ち逃げなんてできるはずがない!!!
 おばあさんは夜なべをしてきびだんごをこしらえてくれたのです、まさか出先で食べなさいと言われたものを目の前で食するわけにはいかない!!!

 出かける準備が整っているため、まさかやっぱやーめたとも言えず、桃太郎は鬼ヶ島まで行って鬼を退治して帰ってくることになってしまいました。


 パニクりながら、鬼ケ島に向けて旅立った桃太郎。

 鬼が島までは一本道、いくら常日頃家にこもりっぱなしで道に疎い桃太郎でも迷いようがないため、地面を遠慮がちに踏みながら歩みを進めていきました。

 どうしてこんな事になってしまったんだ、昔話の世界に生まれるとか聞いてない、めんどくさい世の中に別れを告げたはずなのにさらにおかしな世界に来くるとかありえなす、こういうところが頭悪いんだよ、神なんてほんと無能で……。クソヘタレうんこ太郎違った桃太郎は微塵も言葉を漏らすことなく、頭の中でこの世を憂い真っ黒けな感情をドロンドロンと蠢かせていました。神様に全部筒抜けであることなど全く気が付かないまま、眩しい太陽の光を避け避け、前に進んでいました。


 旅の途中、桃太郎は犬に出会いました。

「わんわん♡桃太郎さん、お腰に付けたきびだんご、ひとつ・・・」
「ぎぃやあああああああアアアアアアアアアア!!!犬!!犬がしゃべ!!!しゃべえええええええ!!!いせ!!異世界、日本昔話の振りしたトンでも世界キモいいいいいいイいいいイ!!!」

 桃太郎は、自分が桃から生まれたというトンデモ展開を棚に上げまくり、ひとしきり騒ぎ立てました。

 犬はあまりの桃太郎のヘタレっぷりにドン引きして、ついて行ってあげる事にしました。

 桃太郎がきびだんごを袋ごと全部突き出したので、遠慮して一つだけもらいました。


 旅の途中、桃太郎は猿に出会いました。

「ウキウキ♡桃太郎さん、お腰に付けたきびだんご、ひとつ・・・」
「ぎぃやあああああああアアアアアアアアアア!!!猿!!さるまでしゃべ!!!しゃべえええええええ!!!まじ勘弁してくださひぃいい畜生に頭脳で負けるとかどんなざまあだよまじなっしんぐぅうううう!!!」

 桃太郎は、自分が畜生以下の凝り固まった自虐脳であることを棚に上げまくり、ひとしきり騒ぎ立てました。

 猿はあまりの桃太郎のビビりっぷりにドン引きして、ついて行ってあげる事にしました。

 桃太郎がきびだんごを袋ごと全部投げつけたので、遠慮して一つだけもらいました。


 旅の途中、桃太郎は鳥に出会いました。

「ケンケン♡桃太郎さん、お腰に付けたきびだんご、ひとつ・・・」
「ぎぃやあああああああアアアアアアアアアア!!!鳥!!鳥しゃべ!!!しゃべえええええええ!!!やっぱりの展開、展開ぃイイイイイイ!!!」

「あたしゃキジだよ!!!鳥っていうな!!」
「ひぃいいいいいいいいいいいいいい!!す、すみませええええええええええええ!!!!」

 桃太郎は、自分の打たれ弱さを棚に上げまくり、ひとしきり騒ぎ立てて謝り倒しました。

 キジはあまりの桃太郎のダメっぷりにドン引きして、ついて行ってあげる事にしました。

 桃太郎がきびだんごを袋ごと全部放り投げたので、遠慮して一つだけもらいました。


 泣きながらとぼとぼ歩く桃太郎と、ひそひそしながらついていく、三匹。

「ああ…おばあさんの手作りきびだんご、もったいなくて食べられないよ、これは食べずにとっておこう、家宝にしよう、これを見ながら幸せだったニート生活を思い出しつつ、僕はこの世のチリとなって消えるべきなんだ、僕なんかが鬼を倒そうだなんて恐れ多い…くそボッチへたれニートの闇落ち永遠の中二病が何気楽にお天道様の下を歩いてんだって話だよね、アアア、砂粒さえも僕を蔑んでいる、ああ、足の裏にはりつかせてしまって申し訳ない、せめて草履で踏んでいれば……。」

「わおーん!!ねえこの人…桃太郎さん何言ってんの?!」
「うきゃきゃ!!腹が減ってるけど食っちまったらなくなるからひよってるんだよ!!」
「けんけん!!うだうだ言ってるうちに腐っちゃうじゃん!今すぐ…食え!!」

 腹がぐうと鳴っても一向にきびだんごを食べようとしない桃太郎に、三匹が切れる事もありましたが、それなりに信頼関係を築きながら賑やかに歩みを進めていきました。


 しばらく歩いていると、鬼ケ島が見えてきました。

「あ、あはは、あれが鬼、鬼のいる鬼ヶ島、ようやくこの地獄のような日々を終わらせてくれるパラダイス、うん僕ね、この人生早々に終了させてもう二度と生まれたくないの、も~さ、帰って来いって言われたけどさ、鬼に負けて土になっちゃったら帰れないじゃんね、そーだね、負けたら全部終わるの、ねえねえどうやって負けたらいいと思う?出来れば痛くないのがいいな、苦しいのもヤダ、そうだ、気絶してるうちにもしゃもしゃ食べてもらえないかな、でもかまれたら目覚めちゃうよね、ああ…どうしたらいいかな、うふ、うふ、ウフフ……。」

 こんなのほほんとしたスローライフを送ってるくせに何を闇まみれになっているんだと、お供の三匹はげっそりしましたが、みんないい大人なので軽くスルーして物語をすすめる事にしました。

「わおーん!!桃太郎さん、あれが鬼ケ島ですよ!!」

 犬が吠えると、どこからともなくクルーザー船がやってきました。

「ウキャー!!おお!!ようこそ鬼ヶ島へだって!!無料シャトルクルーザーらしいよ!!乗ったれ!!!」

 猿が船に乗ると、愉快な音楽が流れ始めました。

「ケンケン!!桃太郎さん、早く乗りなよ!!この村一番の人気アトラクションだよ!!」

 なんと鬼ヶ島は、平凡な日々をぼんやりと過ごす一般人たちにスリルとサスペンスを与えるための場所だったのです。平和ボケした村人たちはこのところ鬼ヶ島を訪れようとしていなかったため、スタッフたちははりきっていた模様!!!

「あ、アトラクッ?!何それ!!昔話の…常識ちゃう!!!野蛮な鬼がいて勇敢な桃太郎がそれをやっつけに行くのがデフォじゃん、何勝手におかしな設定になってるわけ?!…ちょ、何この痛くない完勝コースって!!はあ?!仲良く和解コースもあります?!!一泊二日充実戦闘スペシャルご用意してます?!僕は聞いてない、戦いたくない、てゆっかコミュニケなんか無理!!!くそボッチ何年やってたと思ってんの?!人なんてみんな自分の事しか考えてないし信用とかしょせん無理でね?!」

 病み桃太郎は頭を抱えて一向に船に乗り込もうとしない!!!

「わうぅ~!あーも―!!鬼ヶ島にいるのは鬼だよ!!人じゃないから、おけ!おけ!!!」
「ウッキ~!!ちょ!!今さら逃げんなよ!!もう遅いって!みんなモニタ越しにめっちゃwktkしてるって!!あきらメロン!!!」
「ケンケン!!はよ…のらんかいっ!!!」

 桃太郎は無理やり船にのせられて、そのままものすごい勢いで鬼ヶ島まで連れていかれました。


 鬼ケ島に着くと、お城の門の前に大きな鬼が立っており、桃太郎は腰を抜かしました。

 犬は匂ってはいけない液体の臭いをかぎつけたので、首根っこをかじって桃太郎を持ち上げ、海に放り投げました。
 猿は門に登り、鬼の耳元で何やら囁きました。
 キジは鬼の目を見て目くばせをしました。

「……こりゃあ参った!!わしらは海の水に弱いんじゃあー!!!助けてくれ~」

 そういうと、鬼はお城の中に逃げていきました。

「ちょ、はひ?!はへっ?!な、何これ、ぼぼぼぼぼぼ僕は何もしてなっ……!!!」

 ずぶ濡れの桃太郎は、頭にわかめとカニをのせたままあっけにとられています。

「わおーん!!やったー!桃太郎さん、鬼の弱点を突くものすごい戦法だ!!」
「うきゃきゃ!!よーし、このまま一気に鬼の将軍とっちめたろ!!!」
「けんけん!!ちょ!!逃げんなし!!!こっちこっち!!」

 キジにつつかれながら、鬼ヶ島に上陸する桃太郎!!!

 よたつきながら門をくぐると、お城の中から沢山の鬼が出てきて、口々に騒ぎ立てました。

「う―わー!!磯臭い人間がやってキタ━(゜∀゜;)━!!!こりゃあたまらん!みんな―ひれ伏せー!!」
「はーはー!!桃太郎さま―!!あんたがたいしょー!!!」
「あ、宝物殿はこちらです、どうぞ、どうぞどうぞ!!!」

 明らかなやらせ感を目の前に、どうする事もできない桃太郎!!!自慢のヘタレおつ言い訳パラダイスも発動できない有様だ!!!

 くらくらしながら城の最奥にたどり着かせられると、見上げるようなイケメンの大鬼が桃太郎の目の前に現れました。

「何や、こんなクソヘタレをよこさにゃならんほど…人間どもは平凡で幸せな日々を送っとるのけ!!よきかな、よきかな!!よーし、せっかく来たみやげじゃ、これやるで持ってけ!!」

 久々の活躍の場にテンションが上がったのか、大きな鉄棒を振り回しながらカッコつけた大鬼!!!

 その姿を見て、魂が抜けそうになってしまった桃太郎は、その場にへたり込もうと……。

「グるるぅ…ちょ!!ここで気絶したら…あんなことやこんなことされ放題だけど?!」
「キーっ…お前ここで地に堕ちていいの?!一生飼い殺しだよ!!踏ん張れ!!!」
「ケンケン…あたしはぁ、そういう展開もいいと思うよ♡生BLクル━(#゜∀゜#)━!!!」

 病み桃太郎は身長およそ162センチ、貧弱であばらにはうっすらと骨が浮かんでいました。とてもじゃないけど身長2メートルのマッチョイケメンに押し倒されたら未開発(以下略)
 考えれば考えるほど、己が詰んでいる事に気が付きました。前世で二つ上の姉におかしな腐れ読本を大量に読まされていた桃太郎はあらゆる自分受け展開を妄想し気が遠くなりました。

 桃太郎は歯を食いしばって直立不動を貫きつつ、まだ知らぬ未知の領域に足を踏み入れてしまったのだと恐れ戦き…震えながらぼろぼろと涙をこぼし……。

「なんで僕がこんな目に…オメガバースヘタレウケマサカノゴリマッチョウケヤンデレウケオレサマセメオニマッチョミッカミバンウヘヘマサカノニョタイカカラノイキジゴクノウミソヤキキレルパターン……もうヤダ…コロシテ…コロシテ…オネ…ガ、イ……。」

 大鬼に顎クイされた桃太郎は焦点の合わない目をきょろきょろさせながらおかしな呪文を唱えています。

「……なんじゃい!こいつは!!!」

「ワンワン、これはもう病気みたいなもんなんですよ、はい。」
「ウキウキ、なんか前世からヘタレ乙こじらせすぎてるみたいで、修復不可能なんです。」
「ケンケン、たぶんね、ここで暮らすのはムリゲ、さっさと村に帰して放置が一番いいと思うよ!!」

 桃太郎が放心している間に、お城の金や銀や織物、荷車一杯の宝物が手に入りました。


 これでめでたしめでたしとなりそうなもんですが、そうは問屋が卸しませんでしてね?!


 鬼たちがクルーザーにお宝を積み込んでいくのを見た桃太郎は、またしても病み思考を暴走させてしまったのです。

 こんなお宝を持ち帰ったら、村人たちが集ってくるに違いない、金目当ての腐れババアにロックオンされて見たくもない萎れた肉体を見せられることになるかも、頭の悪い脳筋が暴力を駆使して金品を奪いに来るかも、おじいさんとおばあさんに迷惑をかけるわけには、でも戻って来いと言われてる、てゆっかおじいさんのお宝の鎧が海水に浸ったせいで汚れてる、こんな状態で返せるはずない、磨き上げてから帰るべきだろう、でもこのお宝があるせいでのんびり道中を行くわけにも、だがしかしここで磨きに入ろうもんならあの大鬼が背後からにいじりよっていろいろとこじ開けられて大事故展開になるとしか、つかこんな大荷物持ち帰って船からおろすのめっちゃ大変じゃね?!こんなん三日三晩筋肉痛になるやつやん、こちとら箸も持たずにい手づかみでにぎりめし食ってるレベルの貧弱っぷりなんだぞ、アアア何をどうしても詰んでいる、こんな財宝もらっても使いこなせる気がしない、むしろ厄災にしかならない、こんなもん要らん!!!逃げ出したい、もう逃げたい、今生きているこの瞬間を一気に終了させたい、なんかないか、なんか、なんか、なんかないかあああああああああああ!!!!

 桃太郎は、宝物庫の隅にどくろマークのついた薬瓶を発見しました。

 シールには、【決してひと瓶飲まないように】と書いてあります。

 勝手に追い込まれた桃太郎は、財宝運び出しに忙しい皆の目を盗んで、瓶の中身をあおりました。

「グっ…ぎゅびっ!!!!」

 おかしな声をあげて、桃太郎が倒れ込みました。


「わおーん?!ちょ!!桃太郎が!!!」
「ウッキ~!!!ちょ!!!なにやっとん!!!」
「ケンケン!!!わあー!!桃太郎が早まったー!!!!」

 慌てて桃太郎のそばに駆け寄る面々!!!

 桃太郎の貧弱な体から、ゆらゆらと煙が出始めました。

 見る見るうちに…桃太郎の体が融けはじめ……!!!

 ……ああ、これで…やっと、僕は、俗世間のくそどもとの縁が切れて、ボッチを貫くことが、できる…もう二度と生まれないで、人間関係のしがらみに囚われることなく、消えてしまえるんだ……桃太郎は、悲劇のヒロインにどっぷりと浸りながら、満足げに目を閉じ……って!!!


 なんか、大鬼が血相変えて飛んでキタ――(゜∀゜)――!!


「あほ―――!!!お前…それは不老不死のクスリやんけ!何で、なんで説明書読まんのや!!!!」

「……は?!」


 桃太郎の体が…なんかめっちゃきれいになっている!!!

「わんわん、説明書によると、薄めて飲むこととあるよ!!!」
「ウッキー、原液のまま飲むと、命の終わりポイントが消失しちゃうんだって!!!」
「ケンケン、注意書きによると、木っ端みじんになっても再生するってある!!!」

 なんと桃太郎の細胞が活性化して、常に新しいものに生まれ変わっているようだ!!!なお、髪の毛や爪の伸びるスピードは通常の人間と変わらないらしい!!

「もう死ねんくなってもーたがや!!永遠にこの世界で生き抜くしか…ない!!!」

 あまりの展開に、桃太郎は失神してしまいました。

「わんわん、死ななくなったんだから何しても大丈夫!!」
「ウッキー、多少やらかしても再生するし無理し放題!!」
「ケンケン、あんなプレイやこんなプレイも以下略!!」

 失神している間にいろいろされちゃった話はさておき、桃太郎は宝を持ち帰っておじいさんとおばあさん、犬と猿とキジを看取った後、この世を嘆いて山にこもってしまいました。

 長い年月を過ごしているうちに、ますます病んでおかしなことになりましたが、所詮ヘタレで何もすることができませんでした。

 来る日も来る日も病み続け、どんどん闇落ちしていったものの、向上心も無ければ競争心も同調心も冒険心も探求心も好奇心も依存心も信仰心も同情心も博愛心も執着心も研究心も何もなかったので、新しいものを生み出したり命を叩き潰したりする事もなく、ただただ人目を避けてぼっちを貫いていました。

 持ち合わせていた多少の助平心と妄心、そして過度の羞恥心を胸に、今でも桃太郎はぼっちを貫いているそうです。

 物言わぬ大自然以外、命というものが失われてしまったことに微塵も気づかないまま、己の妄想の中で命に対して文句を言いながら、一人ぼっちで生きているそうです。


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