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賽銭

厳かな雰囲気と神聖な空気の漂う神社にやってきた。

…この所、なんだか僕ははっきりしない。

何かこう、打開するものが欲しいが、具体的にどう動いたらいいのやら。
ついでに言うと、資金もない。

…そんなときは、神頼みってね。

鳥居をくぐる時に軽く一礼をしてと。
手水舎で手と口を清めてと。
参道の端っこを通って社の前まで進みましてと。

…さあて、参拝しますか。

お賽銭を投げ入れて、鈴を鳴らして、二礼二拍手一礼だったな…。

賽銭か。

いくら入れようか。

1円?

いやいや……、さすがにそれはないだろ。

5円?

よく神様とご縁がありますようにっていうよね。
でもさあ、ダジャレってどうなの…。

10円?

なんか銅貨ってこう、神様向きじゃないっていうか、安っぽくない?

50円?

なんか中途半端だよなあ。

100円?

これが妥当か…あ、ヤバイ、財布の中に一枚もないぞ。

500円?

さすがにちょっと出し過ぎだろう。

財布を片手に、うんうん考える僕の横から声が聞こえてきた。

「なんや!!神さんに願い叶えて貰おうとしとる奴がケチ臭いことしとんのう!!」
「社長!!僕がポンと一万円札入れれるぐらい給料下さいよ!!」

…なんだ、景気のいい人たちだな。

「あほかい!自分で稼いだ金を神さんに差し出して更なる金を呼びこまんかい!!貰うことばっか考えて差し出そうともせんとは…そんなケチなやつにどこの神さんが金くれてやろうと思うんや!!!」

ぎく!!

そうだな、もらう事しか考えてない僕に、神様は厳しいかもしれない。
しかし今月最後の一万円札をさしだしたら、僕の命を差し出すことになりかねないんだよね…。

…妥協も必要だな、よし、千円入れるか。

賽銭箱に千円札を入れようとしたら、僕の後ろから声が聞こえてきた。

「お賽銭ってね、派手な音をたてて賽銭箱に入れた方がいいんだって!神さまに今からお願いするよっていうサインになってるらしいよ!」
「え、じゃあ、硬貨入れた方がいいよね。紙のお札じゃ音しないもんねえ…。」

なに!!

僕は財布から引き抜いた千円札を引っ込めた。

「じゃああたし十円玉十枚入れよう。」

後ろの女子二人組は、派手な音をたてて賽銭箱にお金を入れている。
これは絶対に神様も気が付くに違いない。

…よし、僕も小銭をたくさん入れよう。

幸い財布の中は…小銭だらけだ。
僕支払いの時に細かいの出さないタイプだからさ、地味に小銭がたまりやすくって。
一円玉、五円玉、十円玉はわんさか入ってて、五十円玉が一枚に、百円は一枚もなくて…五百円玉が一枚。

よし、五百円玉以外、全部入れよう。

財布も重くなってたしちょうどいいや。
僕は五百円玉をポケットに移動させて、財布の中の小銭を全部手のひらの上に出した。

ワッシャーやビスなんかも入ってる、結構ゴミが入ってるな。
ま、いっか、まとめて入れちゃえ。
多少のごみなんか気づかないでしょ、神様だってそこまでチェックはしていまい。

…そもそも金額とかもさ、チェックなんかするか?

毎日何人賽銭投げ込んでるんだかわかんないくらいじゃん。
チェックなんかしないんじゃないの?

…待てよ、だとしたらさ、音だけ立てればいいんじゃないの?
次からは硬貨大の金属サークルプレートとかでもいいんじゃね?

…そもそも神様に賽銭ってさ、あんま意味なくね?

お金ってのはさ、人間が使うものであって、神様は使わないものじゃん。
そこまで考えて、僕は手のひらの家の小銭を財布に戻そうとして…。

ま、僕はそこまでケチじゃないからさ!!
小銭くらいは全部神様に差し上げますけどね!!

あはは、僕って豪快!裕福!!
だから僕のお願い全部叶えてー!

つか、叶えてくれよ!!
今から全力で願うからさあ!!!

じゃらじゃら、かとん、かとん!!

鈴を鳴らして、二礼二拍手。

僕に現状打破するための案をください。
僕に裕福に暮らせる資金をください。
僕に全肯定してくれるやさしい彼女をください。

…一礼。

よし、これで僕のパッとしない生活もなんとかなるはず!

何とかしてくれよ!神さま!!
俺の全小銭投入したんだからさあ!!

拝礼を済ませた僕の耳に、前の方から声が聞こえてきた。

――あー、君ね、考えてることは全部筒抜けだからね、もうちょっと、気遣いをね。

…僕の願いは、叶いそうも、ない。

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