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桜の木の下で

 ひらり、ひら、ひら、ひらひらり……。

 桜の花びらが、僕に…積もる。

 ああ……、桜の季節が、終わってしまう。

 今年の桜も、とてもキレイだ。

 ひらり、ひら、ひら、ひらひらり……。

 初めて見た桜の感動を、思い出す。

 初めて日本に来た、あの日……、桜の木の下で、ミキと出会った。

 ―――さくら、きれいでしょ!!!

 ひらり、ひら、ひら、ひらひらり……。

 止めどなく散りゆく、薄ピンク色の花びらを共に追いかけて。

 手のひらで受け止めた、小さな幸せを見せ合って。

 薄ピンク色に染まる、ミキの頬を見て、……恋に落ちた。

 ひらり、ひら、ひら、ひらひらり……。

 何度、薄ピンク色の花びらを共に追いかけただろう。

 何度、手のひらで受け止めた小さな幸せを見せ合っただろう。

 さくら色の、ミキの唇に、……何度キスをしただろう。

 ひらり、ひら、ひら、ひらひらり……。

 このまま、ずっと……共に桜を楽しもうと思っていた。

 このままずっと……、一緒に年を重ねようと思っていた。

 ひらり、ひら、ひら、ひらひらり……。

 ―――じゃあ、一番きれいな桜の木の下で…待ちあわせね!

 ひらり、ひら、ひら、ひらひらり……。

 親の決めた縁談を蹴って、ミキを連れ去るはずだった。

 駆け落ちの準備をして、ミキを迎えに行ったはずだった。

 ひらり、ひら、ひら、ひらひらり……。

 僕は、一番きれいな桜の木の下に……ミキを迎えに行ったけれど。

 一番きれいな桜の木の下には……僕の愛したミキは、いなかった。

 ひらり、ひら、ひら、ひらひらり……。

 僕がきれいだと思った桜の木は、ミキにとっては美しくなかったのかもしれない。

 もしかしたら、別の桜の木の下で、ミキは待っていたのかもしれない。

 ひらり、ひら、ひら、ひらひらり……。

 あの日ミキを待った、大きな桜の木。

 敷地内にある、どの桜よりも美しい、…自慢の桜。

 ひらり、ひら、ひら、ひらひらり……。

 ミキを想いながら、長く生きてきた。

 ミキへの想いを胸に、毎年桜の木の下で待ち続けた。

 いつか、きっと、……ミキが迎えに来てくれると信じて。

 ひらり、ひら、ひら、ひらひらり……。

 今年も……桜のシーズンが、終わる。

 ああ……、一番美しい桜の木が、若芽に埋もれてゆく。

 ひらり、ひら、ひら……。

 桜の花びらが、散ってゆく

 桜の花びらが、土に混じってゆく。

 ひら、ひら……。

 美しい桜が、土と混じって消えてゆく。

 美しい思い出が、自分の罪と混じって消えてゆく。

 ひら……。

 僕はもう……待ちくたびれたよ。

 もう……ここで、眠ろうと思うよ。

 ……。

 何度も何度も、掘り返しては、あの日の事を思い出した。

 何度も何度も、思い出したけど、あの日のミキを許せなかった。

 ここには、僕の求めるミキは……いない。

 桜の花びらは、もう、どこにも…ない。

 僕に積もる花びらなど、どこにも存在していない。

 長い間、ミキの上に降り積もった、……桜の花びら。

 それはまるで、神聖な鎮魂の儀式のように。

 それはまるで、惨劇を美しい物語に塗り替えるかのように。

 ここには、僕の求めたミキは……こなかった。

 ―――親を裏切ることはできないよ…

 ―――私たち、大人になろう?

 ああ……、桜の季節が、終わってしまった。

 ああ……、最後に見た桜は、格別に…キレイだった。

 僕の求めるミキは……いなくなってしまった。

 けれど、もしかしたら…僕の愛したミキが、迎えに来てくれるかもしれないと。

 いつか、罪を許したミキが、僕を迎えに来てくれるかもしれないと。

 迎えに来てくれない、ミキを想って、ここで眠ろう。

 僕も、もうじき、君と……混じることができる。

 ミキ……愛してる。

 ミキ……。

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