川口貴史

兵庫県小野市在住・川口製作所代表 / 鍛冶屋見習い / 靴用品アドバイザー / WEB…

川口貴史

兵庫県小野市在住・川口製作所代表 / 鍛冶屋見習い / 靴用品アドバイザー / WEBライター。播州刃物後継者育成事業に参加し、修行の日々を送る 。靴業界での経験をもとに、靴用品の開発にも携わります。旅、山、鍛冶屋の仕事、日々の暮らしを発信します。

マガジン

  • 鍛冶屋の仕事

    日本最古の刃物産地、兵庫県小野市。そこで鍛冶屋の後継者育成ワークショップに通う筆者の日々をつづる。

  • 暮らしの愛用品

    本、カメラ、文具、靴——その他、日々の暮らしを支える、長く使える愛用品を紹介します。

  • 遊歩と野宿

    関西近郊の山々を中心に、歩いて旅した遊歩の記録。

最近の記事

スパイス冒険記|神戸・三宮の老舗カレー店「いっとっ亭」

 4ヶ月の間、毎日カレーを食べたことがある。  それはぼくが25、26歳のころの話で、かれこれ15年ほど前のことだ。  「スパイスをめぐる冒険へ出よう」とか「スパイスの織り成すブラックホールの深淵はいかに」とか考えていたわけではないのだが、神戸に暮らしていた当時のぼくは、職場近くの神戸・三宮センター街の地下へ、昼休みの度にカレーを求めて旅に出ていたのである。  それにとどまらず、休日さえも美味なるカレーを探しに神戸・三宮エリアをうろつきつつ、自宅ではスパイスを買い込んで

    • 鍛冶屋の仕事 Vol.6|これからの鍛冶屋が受け継ぐもの

       「ここ5年ぐらいで、たくさんの中古機械が出回るだろう」  というのは、仕事を見てもらっている、ぼくの大先輩の話だ。  つい先日も、廃業する職人の工房からの、集塵機の搬出を手伝ったばかりだ。昨年は高松で廃業した鍛冶屋の材料やら設備やらまるまる一式を譲り受け、これは現在もその運び出し作業が進行中である。そしてすでに、次の設備をゆずっていただく話がワークショップ(ぼくが通う、鍛冶屋の後継者育成工房)に舞い込んでいた。  伝統産業を受け継ぐ。  それはイコール、職人の技を受

      • 鍛冶屋の仕事 Vol.5|奥深き熱処理の世界

         ナイフのテスト焼き入れをしたときのことだった。  以前の焼き入れ方法では、一定数の焼き割れ、要するに不良品が発生していた。その状況を改善すべく、熱処理方法の改善を模索したのだ。  焼き入れ温度よし、冷却温度よし、焼き戻し温度も時間もよし。  処理の終わったナイフは、新聞紙が音もたてずにすっぱりと切れる刃がついた。 「よし、焼き入れは成功だ」  焼き割れも起きなかった。  自身満々に検査機関に試験を依頼した。  数日後「焼き、全然入ってないで」試験の担当者から知

        • 加古川のソールフード、本家かつめし亭の特選上かつめし

        スパイス冒険記|神戸・三宮の老舗カレー店「いっとっ亭」

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          桜から新緑へ

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          鍛冶屋の仕事 Vol.4|親方のいない鍛冶工場

           ワークショップに通いはじめて1年が経過した。  ナイフの生産はずいぶん手馴れてきたもので、毎月、滞りなく納品できるようになった。  鍛造は――こちらはまだまだだが、鉄と鋼を赤めてたたいてくっつける「鍛接」、この日本の鍛冶技術の根幹ともいえる技も――成功率は3本に1本ぐらいだが――なんとか覚えて、鍛冶屋らしいことができるようになりつつある。とりあえず、刃物は作れるようになったのだ。 包丁を打ちたい 昨年末のこと。  ワークショップで包丁を作ることになった。  ここを

          鍛冶屋の仕事 Vol.4|親方のいない鍛冶工場

          桜のトンネルをくぐり抜けてみると、地元の良さに改めて気づいた

           この街はつまらない、なんて考えていたのは、ぼくが10代のころだった。  電車は1時間に1本しかないし、徒歩圏内にコンビニはないし、大型のショッピングモールや流行の店があるわけでもない。  ただただ街の真ん中に大きな川が流れていて、青々とした稲が風にゆられている――。兵庫県小野市とは、ぼくにとってこんな街だった。あれから20年以上がたったが、街の様子は今もたいして変わらず、あいも変わらずのどかなものである。  この街に帰ってきて、2度目の春を迎えた。  今、おの桜づつ

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          中国料理とみさん|兵庫県加古川市の町中華

           静かな雨の中、加古川市の日岡山公園を散策した帰り道のことだった。  時刻は午前11時をまわり、そろそろお腹のご機嫌をうかがう時間である。  加古川市といえば「かつ飯」だ。ぼくと妻は、もちろんこの加古川を代表するソールフードを食べるつもりでいて、いくつかのお店をピックアップ済みである。ふたりのお腹に尋ねてみても、もうかつ飯を受け入れる準備が整っているようだった。  日岡山公園からJR日岡駅へ、そしてJR加古川駅を目指して歩き始めた。と、ぼくたちの目にとても気になる看板が

          中国料理とみさん|兵庫県加古川市の町中華

          鍛冶屋の仕事 Vol.3|鍛冶屋の打つ道具。日本を日本たらしめるもの

           鉄を赤めてたたく。そうして作られた道具を当たり前のように使っていたのは、ほんの数世代前のことだった。  どこの町にも1軒や2軒は鍛冶屋があって、例えば包丁を作らせたら○○鍛冶屋、農具をあつらえるなら○○鍛造工房と、鍛冶屋がしのぎを削りながら地域の人々の産業や生活を支えていたものだ。  ――と、書いてはみたものの、昭和の晩期に生まれたぼくは、鍛冶屋が奏でる鎚音を聞いて育ったわけではない。ただただ、ぼくの住む町・兵庫県小野市の、そこで鍛冶屋を続ける先達に、その懐かしい時代の

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          ヨモギの薬草茶

           野山を歩いていると色々な香りに出合う。  土や、空気に含まれる湿り気の香り。  獣が残した野生の匂い。  そして木々や野草が発する緑の香り。中でもヨモギの放つ爽やかな香りは、あの草餅をほおばる瞬間の、食欲をそそる清々しい香りとして、多くの人の心に記憶されていることだろう。  そんなヨモギを手軽に利用する方法が、薬草茶である。作り方はとても簡単。  ヨモギの若葉を適量刻む。  刻んだヨモギを急須に入れ、湯を注いで数分待って出来上がり。  薬草茶の淹れ方は様々ある

          ヨモギの薬草茶

          鍛冶屋の仕事 Vol.2|地元の産業を未来へ紡ぐ。富士山ナイフ青紙リリース

           ぼくが通うワークショプが、クラウドファンディングを開始した。  2018年7月に、兵庫県小野市で刃物職人の育成工場「MUJUN Workshop」を立ち上げた合同会社シーラカンス食堂 (本社:兵庫県小野市/代表社員:小林新也)は、職人をさらに増やすことを目的に、これまで主力商品にしていた富士山ナイフの新バージョンをクラウドファンディング(Makuake)でリリースした。売上を後継者育成に活用する。 *  少し前の時代まで、職人の世界では親方に弟子入りするかわりに、食事

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          囲炉裏とソロストーブの共通点とは|これからのエネルギーのことを少しだけ考えた

           現代の暮らしの中で、火のありがたさを実感することは、なかなか難しいことなのかもしれない。ぼくは薪での風呂たきも、かまどでの飯炊きも経験がない世代で、ガスコンロのスイッチをひねれば簡単に火が得られる環境で育ってきた。いや、自宅はオール電化で、そもそも暮らしに火が必要ない家庭も今では珍しくないだろう。そんな現代人が、例えばキャンプやバーベキューで火を起こそうとして、なかなか思うようにいかず、そこで初めて火の尊さを思い知るのである。  少し前、仕事の関係で大内正伸先生宅に泊めさ

          囲炉裏とソロストーブの共通点とは|これからのエネルギーのことを少しだけ考えた

          隠岐

          *2022年の投稿を編集し、再掲したものです。 夕日の沈む先 港町はゆっくりと、夕暮れの光に包まれてゆく。  いつも山ばかり歩いているぼくにとって、海面に降り注ぐ温かな光と、港に漂う潮の香りはとても新鮮だった。波の音色にまじる、時々行き交う車やバイクのエンジン音、それに船の汽笛の他には、何もない。静かなものだ。  八尾川沿いの、汐待ち通りにそって漁船がいくつも並んでいる。漁船の甲板には屋台の骨組みのようなフレームがあり、そこに大きな裸の電球がいくつか備えられている。湾内

          鍛冶屋の仕事 Vol.1|鍛冶屋(見習い)はじめました

           ワークショップの扉を開くと、ベルトハンマーを打つ大きな音が脳天を貫いた。お花ばさみ職人の宮之原氏——今ではぼくの先輩——が、総火造りのはさみを鍛える真っ最中だったのだ。  ワークショップのスペースには、ベルトハンマー他、グラインダーや金床、炉、それにあらゆる工具や鋼材がところ狭しと並べられている。それらを駆使しつつ、赤められた鉄と鋼が、みるみるうちにはさみの姿へと成形されてゆくのだった。  「お花ばさみを総火造りできる職人は、日本にもう5人もいないんじゃないかな」  

          鍛冶屋の仕事 Vol.1|鍛冶屋(見習い)はじめました

          山や旅の記録をとる道具

           スマートフォンのカメラ性能は毎年のように進化する。もはや写真は「スマホのカメラで十分」という人も多いことだろう。  一方で、その手軽さからどんどん撮影を重ねた結果、どこで、何を撮った写真だか分からなくなることはないだろうか。もしかしたら撮影したらそれっきり、二度と開かない写真もあるかもしれない。  写真と同じく、山や旅の記録方法も随分と様変わりした。例えば登山なら、山地図アプリでログをとり、写真を添えてSNSに共有するのが、今どきの登山記録の在り方なのかもしれない。

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          モンベル・トレールワレット|アウトドアにおすすめの小さな三つ折り財布

           山に出かけるときの、悩みのひとつが財布だった。日常に使うような大きな財布を持っていくわけにはいかないし、コンパクトな財布でも使いづらいとストレスになる。ならばいっそ財布を持たなければどうか。  電子マネーで全ての支払いを済ませられるといいのだが、山の施設ではまだまだ現金が主流だ。あれこれ試行錯誤して、たどり着いたのが「mont-bell (モンベル)トレールワレット」である。コンパクトで軽い財布ながら、紙幣や硬貨を使いやすく収納できる点が気に入った。 小さい 軽い

          モンベル・トレールワレット|アウトドアにおすすめの小さな三つ折り財布