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小噺Ⅶ:出会い

極北の紫微宮、高天原の一室で豊受大神と木花咲耶姫が静かに話をしていた。

「福岡県の筑後地区の神社の神職からの御祈願で、最近、気候変動による農業に関する請願が尋常ならざる数、増えているとのこと。不作回避のための祝詞請願が特に筑後って多いよね。「おまえは『豊穣の神』なんだからちゃんとしろ!って天照が五月蝿く言うのよ」。自分だって、『太陽の神じゃん?』って思ったけど、直に言えないしあまり怒られたくないなあ。」豊受大神は柔らかな声で語りかけた。

木花咲耶姫は考えた後、提案を持ちかけた。「その件に関して、私の信頼する神使、櫻を派遣するのはいかがでしょうか。彼女は美しい白毛の秋田犬の姿を持つ神使で、過去にも多くの問題を解決してきた経験があります。」

「櫻…」豊受大神は思い出しながら言った。「酒呑童子退治の際にも、源頼光、渡辺綱(源綱)と共に連携して大いに活躍したと聞いているわ。」

「はい、その他にも多くの歴史的な事件に関わっており、彼女ならば、経験も豊富で筑後地区の問題も解決できると確信しています。」木花咲耶姫は微笑んだ。


筑後市内の神社。夜間から月次祭の準備で神職が勤め忙しくしている中、櫻は筑後市内の各神社を巡り、筑後御霊御巫女命を探していた。その足跡を追い、9ヶ所めの竈門神社に早朝に到着した櫻は、庭先でひときわ美しい少女の姿を目にした。

筑後御霊御巫女命は、櫻の方を静かに見つめ、ゆっくりと近づいてきた。「あなたは…木花咲耶姫様の櫻、ですね。」

櫻は筑後御霊御巫女命の方を優しく見つめ、その場に座り込んだ。その姿勢には尊敬と親しみが同居していた。

筑後御霊御巫女命は笑顔で言った。「私の祖母、八女津媛神からもお話を伺っていました。高天原からの遣いとして、私たちの地を訪れてくれて、ありがとう。」その後、筑後御霊御巫女命は慈しみ深く櫻の頭をゴシゴシと撫でた。

櫻はこの愛情に応えるように、筑後御霊御巫女命の手に鼻をすり寄せた。


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