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小噺Ⅸ:神使櫻ちゃんの初めての美容室

竈門神社の神々、筑後ちゃんと玉依姫命は、神社の神籬のある場所や神域では特別な力を持ち、それにより時折、人間の姿として降神していた。神社に伝わる伝説によれば、この神社の土地が神々の力を増幅させ、人の姿として現れることができるのだという。
ある日、筑後ちゃんが、人の姿で櫻ちゃんと遊んでいると、櫻の家紋の金封が竈門神社に届いた。差出人は木花咲耶姫で、筑後ちゃんが手紙を開くと、「試しにこの首輪を櫻につけてみてね♡」と一言だけ書かれており、添えられていたのは桜の飾り付きの首輪であった。
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何だろうと思いながらも、筑後ちゃんが首輪を神使・秋田犬の櫻ちゃんに付けると、不思議なことに、その首輪に付いていた桜飾りがぽろりと外れ、櫻ちゃんの姿が一瞬のうちに変わってしまった。
「ええっ!?」筑後ちゃんは目を見張った。櫻ちゃんの姿の代わりに、白い髪を持つ可愛い少女がそこに立っていた。
「うーん、どうしたの・・?」と言いながら、少女は首をかしげて筑後ちゃんを見つめた。その瞳は、櫻ちゃんそのものだった。
筑後ちゃんは動揺しながら、落っこちた桜の飾りを少女の首輪に再びはめてみた・・。すると再び秋田犬の櫻ちゃんの姿に戻って『キューン♡』と鳴きながら筑後ちゃんを見据える櫻ちゃんがいた。
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筑後ちゃんは驚きのあまり、また桜の飾りを外すとそれを持って玉依姫命のもとへと駆け込んだ。「姫! 姫! 信じられないことが起こったよ!」
玉依姫命も驚きの表情を浮かべながら、「何が起こったの?」と尋ねた。筑後ちゃんは、櫻ちゃんが人間の姿になってしまったことを告げると、玉依姫命は目を丸くして「えっ、本当に!?」と驚いた。
二人が再び櫻ちゃんの元へ戻ると、首輪から桜の飾りが外れた状態でそこにはまだ少女の姿の櫻ちゃんが待っていた。彼女は玉依姫命に向かって、「姫、櫻が、人間の姿になれるの知ってた?」と尋ねた。
玉依姫命は首を横に振り、「知らなかったわよ。でも、それは木花咲耶姫様が付けた桜の飾りの力なのね、、首輪から桜の飾りを外すと人化するのかしら・・。」と言った。筑後ちゃんと玉依姫命は驚きを隠せない表情で櫻ちゃんの変化を見つめた。
『しかし、あんたたち、髪の色が似てるわね・・。可愛いとこも一緒ね』と玉依姫が笑った。
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3人で気を落ち着けるために拝殿の内陣でお茶を啜ったあと、筑後ちゃんがおもむろに提案した。「人間の姿になった櫻ちゃんに、人間らしい経験をさせてあげたい。」そこで考えたのが、美容室での髪の染め体験だった。玉依姫命が指摘する通り、人間の姿の櫻ちゃんの髪色は筑後ちゃんのそれと似ていたため、区別をつける意味も兼ねて美容室に行き櫻ちゃんの髪を染める(グルーミング&染め)ことになった。
『櫻ちゃん!美容室に行こう!』
筑後ちゃんが提案すると、玉依姫命も興味津々で賛成した。三人で神社の賽銭箱から「髪のお手入れ代」として少しお金を借りて最寄りの美容室へと向かった。
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櫻ちゃんは『怖いよー』と言いながら緊張気味。美容室に到着し、店内へ入ると、若い美容師が明るく三人を迎えた。若い美容師さんが彼女たちの元へやってきて、「こんにちは、初めてお見えになったお客様たちですね。予約は?」と尋ねる。
玉依姫命が、少し困った表情で「予約はしていないのだけれど、大丈夫かしら?」と答える。美容師さんは目を丸くして櫻ちゃんを見た。「この子、可愛いらしいですね! 大丈夫ですよ、ちょうど空きがあります。では、今日はどんなスタイルにしましょう?」と聞いてきた。筑後ちゃんは櫻ちゃんの髪を染めることを提案。そして、染料を塗るプロセスが始まった。
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櫻ちゃんがシャンプー台で水を見ると、再び「怖いよー」と声を上げる。美容師さんがやさしく「大丈夫、大丈夫。」と声をかけて宥める。シャンプーの際、水の冷たさに「きゃ!」と声を上げ、筑後ちゃんと玉依姫命は励ましの言葉をかけた。さらに、ドライヤーの大きな音やハサミの音にも驚き、身をすくめた。

美容師は優しく「大丈夫だよ、これで髪がキレイになるんだ」と声をかけ、「初めての美容室かな?」と尋ねた。櫻ちゃんは緊張しながらも、「うん、初めて…」と答えた。美容師は優しく、「大丈夫、痛くないからね」と声をかけてあげた。
筑後ちゃんは櫻ちゃんの隣で、「櫻ちゃん、大丈夫、筑後ちゃんも玉依姫もここにいるから」と声をかける。

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櫻ちゃんの髪色を茶色に染める際、美容師さんが「この髪色、すごく似合いそう!でも、変えても大丈夫ですか?」と尋ねる。
筑後ちゃんはすかさず、櫻ちゃんのあたまを(優しく)ゴシゴシさすりながら笑顔で、「大丈夫! 櫻ちゃんに似合っていてとてもかわいい!」答える。

筑後ちゃんと玉依姫命が近くで見守る中、美容師は櫻ちゃんの髪を柔らかくブラッシングし、染料を混ぜ始めた。櫻ちゃんは染料の冷たさに少し驚きながらも、美容師の優しい手つきに徐々にリラックスしていった。筑後ちゃんも玉依姫命も、櫻ちゃんの変身に驚きながらも、その新しい姿を褒めちぎった。美容師さんは微笑みながら、櫻ちゃんの髪を綺麗な茶色に染め上げていった。

染め上げた髪を鏡で確認すると、櫻ちゃんは不安げに筑後ちゃんに目を向け、「これ…おかしくない?」と尋ねた。筑後ちゃんは櫻ちゃんの新しい茶髪に指を通しながら微笑み、「似合ってるよ。でも、気に入らなかったら戻せるからね」と優しく言った。櫻ちゃんは少し拗ねて「うーん、考える…」とつぶやいたが、玉依姫命の「とても素敵よ!」という一言で明るい笑顔になり『うん!・・筑後ちゃんと玉ちゃんの言う通り前よりいいかも♡』と顔を真っ赤にして下を向いて恥ずかしそうにしていた。

三人は美容室を後にし、竈門神社へと戻った。櫻ちゃんの新しい髪色を楽しみながら、また新たな日常を過ごすことになった。

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