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心臓血管外科見学の前に知っておくといいかもしれないこと

学生実習で心臓血管外科を回る際に、最低限知っておいた方が有意義な時間が過ごせそう、というようなことをまとめてみました。

自分は人工心肺に関する知識を全く持たずに、初日見学で1人放り込まれたため、なんかすごいスピードで進んどるーーーー、チューブが大量に、うおーーーーーー、みたいな状態でただ傍観しておりました笑

その後に色々と教えて頂いて、これは見学の前にちょっと誰か大筋教えてくれないとただただ緊迫した訳わからん時間を過ごすことになる、と思いどなたかの役に立てればと思いまとめてみます。

やっぱり肝は、最初の人工心肺導入、いわゆるポンプオンのとこだと思います。送血菅と脱血管と心筋保護の流れを、心臓血管外科のオペで最もスタンダードとして位置付けられる(らしいw) AVR : 大動脈弁置換術をモデルにさらってみます。
以下の動画が非常に参考になります。イムスすごし。

ちなみに見学するのは、主に以下の3つのうちどれかになるはず。
大動脈の人工血管置換CABG弁膜症に対する弁形成or置換
です。CABGか弁修復を見る機会が多いと思います。

弁膜症

さて、オペの手順の話の前に、
弁膜症に対する外科適応をまとめてみると
まずP弁(肺動脈弁)に介入することは成人のケースではほとんどない、としますw。

ので残り3つの弁に対してですが、基本的に大事なのは左心系、つまりM弁(僧帽弁)とA弁(大動脈弁)です。
が、ひとまずT弁(三尖弁)に関して先にまとめてみると、T弁の異常の90%程は左心系に続発する二次性のTR(逆流)です。つまりT弁の異常というのは、左心不全によるvolume負荷からのT弁の弁輪拡大です。これに対する修復は弁輪の縫縮です。

は??っていう方に、まず弁の外科的修復というと3つの方法があります。ここではM弁の話で説明します。
MVR (mitral valve replacement) 僧帽弁置換
MAP (mitral annuloplasty) 僧帽弁輪縫縮術
MVP (mitral valvuloplasty) 僧帽弁形成術
の3つです。

基本的には置換か形成の二つで考えてよく、自己弁温存という観点から出来るだけ置換ではなく形成を行いたい、というのが施設側のmotivationです(弁形成の割合の高さは各教室の売り文句です。)弁輪縫縮術というのは、逆流が単に弁輪の拡大によってのみ引き起こされてる場合に、リングでギュッと縮めて面積を正常に戻してしまおうというもので、3つの中で最も単純?(弁尖に対して何もしないという意味において)です。

で三尖弁に戻って、
T弁に対する修復は基本的にA弁とかM弁の修復と同時に行われ、行われるのはほとんどTAP、つまり弁輪縫縮術です。簡単にいうと、左心系をなんとかした後にT弁はリングを縫着して弁口面積を元通りにすればOKっていうイメージです。(説明がゆるいw)実際、TAPを行う場合の90%以上は、同時にA弁・M弁の片方 or 両方の修復を伴うcombinedのオペです。

で、本題の、というかA弁とM弁ですが、
物凄い大雑把にいうと
A弁に対してはほぼAVR、M弁はMVR、MAP、MVP全部あり得る、という感じです。M弁の形成は施設によってかなり進められるようになっている(形成術の成績が置換とほぼ同等)が、A弁の形成の長期試験の成績は未だ不明という感じらしいです。(ここらへん、非常に歯切れが悪いw)。

A弁に関してより具体的に言うと、AS(狭窄)・AR(逆流)に対してはほとんどAVR(置換)、一部ARに対してAVP(形成)が施設によっては可能である、ということです。一応後で、AS or ARどちらなのかは、心筋保護液の還流方法に関わってきます。
M弁に関しては、MSの原因はほぼリウマチ熱のみで、それもかなり数は減ったため基本MRに関して考えればいいんですが、このMRが弁膜症のなかで最も複雑です。MRの原因が一次性 organicなのか二次性 functionalなのか、さらにfunctional MRの中でも心房性 or 心室性なのかによって、大きく3つに分類され、それぞれで介入の仕方が異なってきますが、それはいつかまとめたいと思います笑。やっぱりM弁は僧帽弁装置 mitral apparatus と言われるように、他の弁と違って弁尖や弁輪だけでなく、腱索や乳頭筋、左房及び左室など逆流の誘因となる要素が様々です。加えて、sBPという最も高い圧がかかるので例えば術後管理なども一番気を使うようです。例えば、僧帽弁置換術後は逆流がなくなるため、後負荷が一気に増大するので、EFがかなり悪化したりします。そのため sBP≦120 と低めに設定したり、ワーファリン のモニタリング指標となるPT-INRの設定を2.5~3.5と長めにしたりなどします。ちょっと本題ではないのでスキップ。

■人工心肺 CPB(cardiopulmonary bypass)

でとうとうポンプオンの話に移ります。今回はASに対するAVRという想定です。

胸骨正中切開で、開胸器で広げてから心膜に切開を入れて釣り糸でしっかりと広げて固定し、視野展開を終えた後からの話です。ちなみに胸骨切開した直後は、骨膜の止血をしっかり行います。

ヘパリンを麻酔科の先生に投与してもらいます。だんだん凝固が延長してきます。
ポンプオン(人工心肺回ってる間)中、凝固がちゃんと延長しているか逐次確認する必要がありますが、そのモニターにはACT (activated coagulation time) 活性化凝固時間 が使われます。CEさん (いわゆるperfusionist:人工心肺技師) がオペ中、ACT400いくつです〜、500いくつです〜と頻繁にいいます(正常値:90~120)。PT, APTTは測定に時間がかかるそうなので、迅速に計れるACTが使われるようです。

後述するフローに関しても同様ですが、この ACT は術者がシチュエーションに応じて麻酔科の先生にヘパリンで調整してもらうみたいです。例えば、出血が止まらない時はACT短くして〜、というイメージです。

<余談>ヘパリンを投与してもなかなかACTが延長してこない患者さんがいるらしいです。ヘパリンはATⅢ:アンチトロンビンⅢを活性化しトロンビンを阻害するんでした。つまり、ATⅢが欠乏している患者さんは、ヘパリン投与しても凝固延長しません。なので、術前カンファレンスではATⅢの値が確認され、欠損している場合にはATⅢも同時に投与されます。
DICに対する抗凝固療法でヘパリン+AT製剤を投与しなきゃいけないのと似てますね。あちらはATⅢは消費性の減少ですが、、

では、具体的な手順に入っていきますが、オペレコは略語多めなので、できるだけそれも抑えていきます。

・1 送血カニューレ挿入

まず、上行大動脈に送血管挿入(カニュレーション)を行います。

人工心肺を回す場合は、基本的に上行大動脈に送血管、SVC/IVC(上・下大静脈)に脱血管を挿入して循環を維持します。送血管を大腿動脈に挿入するFrアクセスの場合がありますが、そうするのは、
MICS (minimally invasive cardiac surgery) といって肋間にキーホールサイズの傷跡しか残さない低侵襲手術(大動脈にカニュレーションする程のスペースが得られないため)の場合か、
re-do(再開胸)の症例で心臓と胸壁の癒着が激しい時(で先に partial flow:部分循環 の状態にしておきフローを少なくすると心臓のボリュームが小さくなるため、胸壁との間にスペースが生じ、より安全に胸骨切開を行える)、
あるいは、大動脈弓部をいじる時(全弓部置換 TAR : Total Arch Replacementなど)、
の3つの場合です。他にもあると思います、、
 TF (transfemoral) の際は、もちろん術前にCTでFrの石灰化がないことを確認しておきます。

さて、カニュレーションを行う前には、大動脈の外膜にタバコ縫合といって糸掛けをします。タバコ縫合は、巾着縫合(purse-string suture)という別名の方が分かりやすいですが、最後、閉胸の際に送血管を抜くと当たり前ですが大動脈なので出血が激しいです。ですので、抜去と同時にカニュレーションで開いた穴を巾着のようにギュッとすぐ閉じたい、なので予めカニュレーションの前にタバコ縫合をかけておいてこの準備をしておきます。これは脱血管挿入においても同様です。また、挿入している間も巾着でギュッと周りを絞めていれば、挿入部位周囲から出血を防げるという意義もあります。挿入中、送血管の両側に2本、管が一緒に固定されていると思いますが、これがタバコ縫合の糸をグッと引っ張って固定するようになっています(いわゆるターニケット:駆血帯と呼ばれるやつです)。

・2 脱血カニューレ挿入

これが終わったら、今度はSVC/IVCに脱血管挿入です。
re-doなどで癒着が激しい症例では、やはりまず視野確保、SVC/IVCの同定に時間がかかります。
脱血のカニュレーションをしたら、ACTがしっかり延長している(施設で異なるが大体480らしい)ことを確認して、いよいよCPB開始です。貯血槽内(リザーバ)のvolumeがだんだん増えていきます。

・3 レトロカニューレ挿入

この次は、レトロカニューレです。レトロカニューレを挿入しない場合は飛ばして4に行ってください。

これからCP (cardioplegia : 心筋保護液)で心停止させるのですが、CPの冠動脈への還流はアンテ(順行性)とレトロ(逆行性)の2種類があります。大体が最初アンテで途中からレトロで、という使い分けになると思いますが、例えばARがあって最初アンテで流せない場合は、レトロからという風になるかと、、ここら辺まだちょっと不明。

ちなみにこのcadioplegia。心停止を得てから、「プレギー20分でーす。」とかこれまたCEさんが仰います。大体20~30分ごとにCPを還流させるようです。

ちなみにレトロで流す場合、カニュレーションは右房内の CS (coronary sinus: 冠静脈洞)に挿入します。細かいですが、ここでのポイントはsinusからすぐのところに右冠静脈が開口するので、挿入が少しでも深すぎるとCPが右に還流されず、心停止が得られません。ので直視下にやる場合にはここもタバコ縫合をうまく使って、ギリギリに挿入されるようにします。(ブラインドで挿入、といって右房を切開して直視下で挿入するのではなく、カニューレの先端の圧を計測しながら半ば手探りでカニュレーションという場合もありますが、省略)

・4 左心ベントカニューレ挿入

次はLVベントを左室 (or左房)に挿入します。ベントカニューレとはオペ中、心臓内で無血野が確保されるようにサクションを行うチューブです。SVC/IVCで脱血を行っても、気管支静脈からの血流が肺静脈から絶えず存在することに加え、AVRの場合、逆流があるため、という理由から必要です。(最後のガス抜きの際も大事になってきます。)

さてこのLVベントは、まずSVCを避けてあげた先に右上肺静脈 RUPVが見えてきます。このrt upper PVに挿入し、LA→LVへと進めます。到達したら、ちゃんと吸引することを確認するベントテストを行なっておきます。このLVベントが機能しないと、後で心停止を得た時に心臓内にvolumeが増えていき、過進展を起こしうるので非常に大事です。

ちなみにカニュレーションの際にはバックアップといってvolumeを少し患者さん側に戻します。こうしておくと挿入部を通じて左心系に空気が混入するのを防ぐことができます。フローの話はまた後で触れます。

・5 ルートベント挿入

そしたら、大動脈基部(ルート)にルートベントを挿入します。こちらも先にタバコ縫合を掛けておきます。ルートベントはアンテのCP用です。この後、大動脈を遮断すると、遮断鉗子と大動脈弁の間で空間が閉鎖されます、すると冠動脈にCPが還流される、という仕組みです。

・6 大動脈遮断

最後にルートベントのカニュレーションと送血管のカニュレーションの間の位置で大動脈を遮断します。遮断の際は、大動脈の背部の剥離をしっかり行なっておきます。遮断鉗子は噛みすぎると解離を起こすので、ラチェットは1段階目で止めておきます。

この時点、あるいは心臓がVFを起こした時に循環は人工心肺が完全に担います。ここからtotal perfusionとなります。「トータルフローです。」という声がCEさんからかかります。それまでには脈圧はどんどん低下していき、送血圧(大体60~80mmHg)らへんで一定になります。換気も必要なくなります。

ちなみにまたフローの話。遮断の際には、今度はフローダウンといって送血量を落とします。これで大動脈壁へのストレスを減らします。遮断後はまたバックアップで送血量を元に戻してあげます。

このようにバックアップ・フローダウンによるフローの調節は術者の指示のもと、CEさんが貯血槽内のvolumeを調整する(具体的には、送血量を調節するつまみを回す)ことでコントロールされます。他には出血が怖い時にはフローを下げ、逆に張らせて立体構造の利を得たい時にはフローを上げるといったイメージですが、ちょっと自信ありません。

→(トータルフローのタイミングに関して訂正)細かいですが、いわゆるトータルフローとなるのは、脱血管2本の周囲をテーピングし、完全脱血となったタイミングのことを言うようです。失礼しました。

とりあえず、疲れたので以上。

閉胸はなんか手順をまとめるのがより難しい気がします、、笑
(Hot shotとかエアー抜きとか説明難しいです。)
いつかまとめまーす。

何か訂正箇所ございましたらご連絡くださいませ。



以下、ただのメモ。

ASに対してAVRの時。ARはないので普通にルートベントからアンテ。置換が30分以内に終わる (かつ、A弁単独の手術の場合) なら、その一回だけでOK。30分超えたら2回目のCP還流。これはレトロで追加するか、または、selective(選択的)還流といって、大動脈切開している時に可能で、2つの冠動脈口に直接カニューレを挿入しアンテで還流させるという方法。これは他の操作を一旦停止して行う必要があるのが難点。ただできるだけアンテでいきたいという先生が多いっぽいので多分selective推奨。

ARに対してAVR or AVPの時。最初アンテいけないので、レトロで心停止を得る。で、大動脈切開し置換を行うが、同様に30分超えたらselective行う?のかも。
それかたぶん(ここから妄想)、脱血開始してしばらくしたらVFが起こって、すぐ大動脈遮断して、切開してselective開始して初めて心停止を得る。のかも。

とにかくM弁に介入する場合には、レトロ使う。これはどの施設も共通。

と思ったけどそれも例外はあるっぽいw。

また、大動脈遮断のタイミングに関しては、youtuberのゆたぽん先生という方に質問したら、動画で答えて下さいました↓。
低温

最後、だいぶバラバラなこと書いてますw。いつかまとめまーす。

バイパスのことも少し触れたいんですが、そのうち冠動脈造影のFFRの結果を入力するだけでグラフトデザインを出力してくれるという、ほんとに需要のないサービスを作ろうと思います。異常。

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