「労働者」性チェックリスト 労働者と個人事業主を分けるポイントとは

フリーランスは、労働者なのか個人事業主なのかがあいまいであることが多いと、前の記事に書きました。労働者であれば、労働基準法、労働契約法などの労働法の適用で解決できる問題も多いのですが、労働者ではなく個人事業主だとすると、労働法以外の法制度を利用しなければなりません。そこで、フリーランスの方々が労働者にあたるかどうかが、トラブルの解決策を考えるにあたって真っ先に検討すべきポイントであることが多いです。

実は「労働者」と一口でいっても、労働基準法上の「労働者」と労働組合法上の「労働者」とは異なるのですが、ここでは、問題になることの多い労働基準法上の「労働者」に絞って、チェックリスト方式で解説します。フリーランスの方々は、以下のチェックリストをぜひ試してみてください。

ただし、「労働者」性の判断はとても難しいです。一般論として、+が多く-が少ない方が「労働者」である可能性は高まる(+が少なく-が多い方が「労働者」ではなく個人事業主である可能性が高まる)ということはできますが、全部+でなければ「労働者」にならないわけではないですし(3重否定でわかりにくくてすみません)、逆に、+が多かったら即「労働者」だというわけでもありません。個別のご事情により、各チェック項目の重要性も異なります。あくまでも参考程度に考えていただき、確定診断は、弁護士に受けるようにしましょう。

労働者性チェックリスト

1. 諾否の自由の有無

+発注者からの仕事の依頼や業務指示を断ることができない
+発注者からの仕事の依頼や業務指示を実際に断ったことはない

発注者からの仕事の依頼や業務指示を受け入れるか拒否するかの自由(諾否の自由)がないと、「労働者」といえる方向の事情になります。もっとも、個人事業主の場合であっても、ある一定の仕事を受託した以上、その仕事の一部となる個々の具体的な作業の依頼を拒否することは難しいでしょうから、諾否の自由がないから直ちに労働者だということにはなりません。

2. 業務遂行上の指揮監督の有無

+業務内容や進め方について事細かに(「箸の上げ下ろしまで」)発注者の指示を受けている

業務の内容や進め方について事細かに発注者から指示されている場合には、「労働者」だといえる方向の事情になります。もっとも、個人事業主の場合であっても、発注者から全く何の指示も受けないということはあり得ません。宇賀神の個人的な意見ですが、仕事や成果物の内容や、そうした仕事や成果物の満たすべき水準を発注者から指示を受けるだけではなくて、フリーランスが実際に行う作業を、それこそ「箸の上げ下ろしまで」事細かに指示を受けているかがポイントになると思います。

3. 勤務場所・勤務時間の拘束性の有無

+フリーランスの働く場所が、発注者により指定されている
+フリーランスの始業時刻と終業時刻が、発注者により指定されている
+フリーランスの出勤時刻・退勤時刻は、タイムカードやフリーランスの申告により、発注者が把握している

勤務場所や勤務時間が発注者から指定され管理されている場合には、「労働者」だといえる方向の事情になります。もっとも、個人事業主の場合であっても、例えば他の従業員や客先との時間調整の関係で特定の時間に勤務をすることを求める場合など、必ずしも「労働者」に対する指揮監督とはいいきれない場合もあります。

4. 代替性の有無

-契約上、フリーランスの業務を他の補助者に任せることが認められている

「労働者」というのは、自らの労働力を提供するものですから、自分以外の補助者を用いることができる場合には、「労働者」の意味合いが薄れることになります。契約書がある場合には、再委託ができる・できないと規定する例が多いので、そのような条項があるかどうかを確認しましょう。

5. 報酬の「労務対償性」の有無

+報酬が時給で計算される
+欠勤した場合には報酬が控除される
+残業した場合には別の手当が支払われる

「労働者」というのは、自らの労働力を提供した対価として報酬(賃金)を得る者です。逆にいうと、もらっている報酬が、労働力の使用(時間)の量に沿って算定されているなら、「労働者」である可能性が補強されることになります。

もっとも、報酬を1時間当たりいくらで決めるからといって、直ちに「労働者」であるわけではありません。(タイムチャージ制をとる)弁護士も、いわゆる「人工(にんく)」単位で請求額を決める業種もそうですが、個人事業主であっても報酬を1時間当たりいくらで決める例はいくらでもあるからです。

6. 顕著な事業者性の有無

-業務で用いる機器や設備(パソコンや車両など)は、フリーランスが用意している
-業務で用いる機器や設備(パソコンや車両など)は、フリーランスが代金を支払っている
-フリーランスが得る報酬の額は、従業員が得ることのできる金額よりも著しく高額である
-フリーランスが独自の商号・屋号を用いている
-フリーランスが法人成りしている
-契約上、フリーランスの業務中に第三者に生じた損害に関する責任は、フリーランスが負うとされている

上記の事情がある場合には、「労働者」というよりは「事業者」であるという色彩が濃くなるので、「労働者」には当たらない方向に働きます。

もっとも、これは補強要素であって、決定的な要素ではありません。宇賀神が個人的に見聞きした範囲では、例えば配送業において業務委託で働いている方々は、「労働者」ではないという整理のもと、業務に使う車両のリース代やガソリン代は個人持ちとされ、報酬から天引きされる例が散見されます。この事実自体は、上記の「事業者性」を示す要素に形式的に該当してしまうのですが、他の要素も総合的に考えれば、実態は「労働者」であり、労働基準法24条の賃金の全額払いの原則に反し違法な場合もあるだろうと思います。

7. 専属性の有無

+契約上、他の業者と取引してはならないという規定がある
+他の業者と取引することについて、発注者から文句を言われたことがある
+発注者からの業務が忙しすぎて、他の業者と取引している暇がない

ある発注者のみに経済的に従属しているといえる場合には、「労働者」にあたる方向に働きます。

8. その他の要素

+報酬に固定給部分があるか、事実上固定額が支払われている
+採用の選考過程が正規従業員とほとんど同じである
+報酬に給与所得として源泉徴収がされている
+労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金に加入している
+フリーランスなのに、職場の服務規律が適用されている
+フリーランスなのに、退職金やその他の福利厚生を受けることができる

報酬が固定給である場合には、それは業務に対する対価というよりも、生活保障給的な色彩が出てくるので、その分「労働者」にあたる方向に働く事情になります。そのほかの項目も、肯定されれば、「労働者」と取扱いが似ていることを意味するので、「労働者」にあたる方向に働くことになります。

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