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P17 観えるもの 観えないもの

次の正午前、例のごとくまたチャイムとノックが鳴った。

今度は11時12分だった。


おそらく今日は予定通りに事が運んだらしい。

戸口を開くと彼が昨日と全く変わらない格好と全く変わらない姿勢で立っていた。

あまりにも瓜二つの現実にデジャビュだと勘違いしそうになった。



「それで、答えはでたかい?」

彼は相変わらず、前書きも挨拶もない直球を投げてきた。

それで私は昨日の出来事は現実だったと改めて確認できたわけだが。



「いちおう、私なりの答えはでました。…けれど」


「…けれど?」


わずかに眉をひそめながら彼が復唱した。


「あまり、確信がないというか、自信がないんです」


「なんで答えを出すことに自信が必要になるんや?」



また、彼から唐突な質問だった。

ここまでくるとまるで尋問を受けているような気分だ。

でも言われてみれば彼の意見はもっともなものだと感じられた。


「けれど、あなたが期待している答えでなかったり、的外れな答えかもしれない」


それは私なりの精一杯の反論だった。


「わしが期待しているとか、正解があるとか、そういうこと言ったか?」


私は沈黙で答えるしかなかった。



「君はね、周りからの評価を真に受け入れすぎや。

いつも親の顔とか、学校の先生とか、友達の顔色を伺ってから自分の行動を決めてきたんやろ。

そんないちいち、周りを気にしてたら自分の人生なんてちっとも生きられへんで。」


私はまた沈黙するしかなかった。

彼の言った言葉を検証するように、記憶が走馬灯となってかけめぐった。

父の顔、先生の顔、友達の顔…そして母の顔


「言っておくけど、誰もお前のことなんて分かってないんやで

それが家族だろうが、友達だろうが、どんだけ近しい人でもや

なぜだか、知っとるか?」


この人は人の頭のなかが視えているのだろうか。

そう思ったのは皮肉にも彼が

【誰も私を理解していない】という私の捻くれた信念を口にしたからだ。



「なぜなら、人は自分のことすら分かっていないからや。

手前の問題も解決しないやつに限って他人の問題が気になって仕方ないんや。


それは相手のことが気になっとるんちゃうねん。

”己を観ているから”どうしても気になって仕方ないんや。」


彼の話す一言一言に、私は内側に電流が走ったような気がした。

何かが駆け巡り、何かを再編成し、何かを生み出すような感覚だ。

話の展開の話の速さに私はついていけなくなってきた。



「結局な、大抵のやつは自分のことしか観えていないということや

君が受け入れてきた意見はな、君に言っているようで君に言ってなかったということや。

そんなもんを受け入れて、いったいなんになるんや?」



私は新たに駆け巡った情報を処理することに精一杯だった。





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