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渡米26日目 明日が来ないようにしてほしい

今日は日曜日。いよいよ大学院での授業も来週から3週目に突入する。徐々に課題も増えてきて、まるで長距離走を闘うマラソンランナーのように、うまく体力と時間をペース分配してやりくりしないと、〆切直前の気合いだけでは乗り切れない状況になりつつある。

加えてこの目の見えづらさから、本を一度写真に撮り文字読み取りアプリでデータ化し音声化して目と耳で学習するというスタイルをとっているので、一つ一つのリーディングをこなすのに通常の2、3倍の時間がかかってしまう。だが、五感をフル活用するという意味では、ある意味吸収力の高い学習法でもある気がする。

Directingクラスの担当教授であるJuliaに自分自身の目の現状と、それでもなぜ今映画を学ぼうとしているのかを、先日の提出したリポートにしっかり書き綴ったところ、

「Thank you for your heartfelt and vulnerable statement, Takaya. I admire your determination and I hope that your time at Emerson College will help you achieve your calling as a fillmmaker.」
(自らのデリケートな状況を包み隠さず伝える心のこもったエッセイをありがとう。 私はあなたの決意を称賛し、エマーソン大学での時間が、あなたのフィルメーカーとしての使命を達成するのに役立つことを願っています)

心の籠った返信が昨日届き、僕と同じように視力喪失を経験した4人のアーティストのドキュメンタリー映画を『Vision Portrait(ビジョン・ポートレイト)』(2020年公開)を大学の図書館に取り寄せるように依頼してくれたという。この映画の監督であるRodney Evans(ロドニー・エヴァンス)は彼女の友人の友人でもあり、1997 年に網膜色素変性症と診断されたのだという。

彼女の心のこもったリアクションにとても励まされる思いがした。テクノロジーをいかに身につけつつ、今の自分自身にできる表現を追求していくか。それが僕にとって直近の課題であり、さらに今後の大きな宿命となってくるだろう。

今日はとても天気のいい秋の日。一日中、家の中にいるものもったいないと妻がブルックライン図書館に行こうと提案してくれて、家族で徒歩15分程度の場所にある図書館への向かった。図書館は、本ばかりでなく、DVDやゲーム、はたまたワンピースなどの日本の漫画(英語版)も揃っていて、気に入れば一日過ごせそうな環境だった。だが、子ども達はそこまで関心を示さず、早めに切り上げることになった。

「ああ、明日が来なければいいのに。ねえ、明日が来ないようにしてほしい」

公園に寄りながらの帰りの道すがら、長男がしきりにそう口にしていた。夜になるとやはり同じセリフを何度も口にした。先週金曜日からいよいよ現地の公立校に登校し始め、明日からはいよいよ新たな1週間が始まる。英語がほとんど話せない今の彼にとって、俄かに始まった新学期は過去最大級に心理的なプレッシャーが大きいことだろう。一緒に学校から配布されたパソコンを開いて、何か宿題が出ていないか確認し、月曜日の時間割をみんなで確認した。

一つの教室で授業を受ける3年生の次男と比べて、中学生にあたる7年生の長男には自分のクラスというものがなく、クラスごとに教室を移動する。どの教室に移動していいか、とても戸惑いがあるという。時間割の中に、3桁の教室番号が書かれているものの、例えば「206」と書かれていても、そこが2階のどこにあたるかわからない。周りの人に聞ける積極性があればいいのだが、まだそこにも苦手意識があるのだろう。

「最初はわからないのが当たり前だから、大丈夫。わからないことはわからないと言えばみんなきっと親切に教えてくれるよ」

そう妻とともに長男を励まし、10時過ぎに子ども達が眠りに着くと、僕は再び課題のリーディングに取り掛かった。明日の脚本クラスのテキストWriting Short Filmは、短編脚本を描くにあたっての心得を、沢山の映画を引き合いに出しながら、物語にとっていかに「葛藤」や「障壁」が大切かを説いていた。今の長男は映画の主人公そのものだなと感じながら、夜中までかかって読み進めた。

DAY26 20230917月3509-3600-3619

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